デイ利用控えたのに…介護報酬の特例措置に波紋

 首都圏を中心に、再び感染拡大傾向が続く新型コロナウイルス。重症化するリスクが高い高齢者らにサービスを提供する介護事業所では、とりわけ徹底した感染防止対策が求められる。厚生労働省は6月、そのために必要となった業務に報酬をつけるため、実際に提供したサービスより多い介護報酬を請求できる特例措置を打ち出したが、利用者からは「利用していない分まで払うのは納得がいかない」との声もあり、波紋を呼んでいる。(加納裕子)

 ■協力したのに

 滋賀県内で母親(98)の介護をする女性(71)のもとには6月下旬、母親が週2回利用しているデイサービスの事業所から封書が届いた。中には、新型コロナ対応のため、7月からは利用した分よりも多く介護報酬を算定することを承諾したとする書類。署名押印して返送するよう求めており、返信用封筒もついていた。

 「えっ、なんで?と思ったけれど…。いつもお世話になっているから、『すぐに出さないと』と思って、サインして返送した」と女性は振り返る。

 実は、4月に県内で緊急事態宣言が出てから約1カ月間は事業所の要請に従い、週2回だったデイサービス利用を週1回に減らしていた。これまでデイに任せていた入浴も自宅で行うなど、家族の介護負担は増えたという。女性は「事情を察して協力した。それなのに、利用者に負担を求めるなんて」とやり切れない思いを抱えている。

 ■感染症対策を評価

 この要請には、根拠がある。厚労省老健局が6月1日、自治体の担当部局に向けて発出した事務連絡だ。6月に提供するサービス分から、たとえば通所系サービス事業所では事前に利用者の同意を得た上で、提供したサービスの報酬区分よりも2区分上での算定を可能とするなどとした。

 通所サービスを所管する同局振興課の担当者は「事業所が行っている感染症対策を介護報酬で評価するという趣旨で、事業所の減収補(ほ)填(てん)ではない」と説明。1割負担であれば月200~300円程度の増額だといい、「事業所が感染症対策をしっかりすることで、利用者も安全に過ごせる。利用者側にもメリットがある」と理解を求めた。

 だが、公益社団法人「認知症の人と家族の会」(本部・京都市)には、介護施設を利用する全国の会員から「3時間しか利用していないのに、5時間の利用料を払うのは納得できない」「架空請求ではないのか」との声が相次いでいる。同会は6月29日、「利用者と事業者の信頼関係を壊し、介護保険制度への信頼を揺るがす」などとして、厚労相に特例措置の撤回を求める緊急要請を行った。

 同会の鈴木森夫代表は「おかしいと思っても、普段お世話になっている事業所から言われると断れない。期限もない」と問題点を指摘する。全国の会員からは「消毒液にお金がかかるから、といったあいまいな話をされた」との声も寄せられているといい、「説明が不十分なケースもある」と危惧している。

 ■ケアマネも戸惑い

 公益社団法人「大阪介護老人保健施設協会」によると、厚労省からは新型コロナ関連でさまざまな特例が発出され、そもそも現場は混乱状態。今回の特例措置についても、事業所からは「どう解釈すればいいのか」といった問い合わせが相次いだという。

 一人一人の介護プランを作成し、支給限度額を確認したり、利用者負担額を計算したりする立場のケアマネジャー(介護支援専門員)からも戸惑いの声が上がる。大阪府枚方市介護支援専門員連絡協議会の担当者は「限度額を超えてしまう人からは取りにくいし、同意しない人からは取れない。あまりにも不公平感が強い」と指摘する。

 同会によると、マスクや消毒液などを求めて職員が奔走したり、利用者が減って収益が減ったりと、介護事業所の負担が大きいのは事実だといい、「利用者が納得できるようなやり方に変えてほしい」と話した。

     ◇

 ■介護報酬 介護事業者が利用者にサービスを提供した際、対価として事業者に支払われる費用。サービスごとに設定されており、利用者負担はほとんどの人が1割だが、前年度の所得に応じて2割や3割負担になる場合もあり、残りは介護給付(介護保険料や税金など)でまかなわれる。介護の必要性を示す「要介護度」に応じた支給限度額があり、それ以上のサービスを利用した場合は全額自己負担となる。

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ