マンガ家にもリストラが…売れっ子が失業し迷走の日々 わたべ淳「遺跡の人」

 【マンガ探偵局がゆく】

 今回はなかなか重たい依頼だ。

 「コロナの影響で契約社員として7年勤めた会社をクビになりました。外食チェーン向けに食材を輸入する仕事だったので、中国の輸出ストップと国内の自粛の影響をモロに被りました。会社の経営もピンチで、薄々感じてはいたのですが、ショックです。目下、就活中ですがかなり厳しい状態。その点、クビも定年もないマンガ家はうらやましい。それとも、マンガ家にもクビとか定年があるんでしょうか?」(41歳・無職)

 フリーランスのマンガ家に定年はないように見える。しかし、毎日が定年と言われてもおかしくないのがフリーの辛いところだ。一寸先は闇の綱渡りというのが現実だ。

 作品がアニメ化されて単行本が出るたびにベストセラーになるようなひと握りの超売れっ子マンガ家ならいざ知らず、そこそこ売れているくらいでは安泰とは言えないのだ。

 そんなマンガ家の危うい実情を描いたマンガがある。わたべ淳が2007年に「漫画大衆」に連載した「遺跡の人」だ。

 主人公は売れっ子マンガ家。ところが、ある日突然、連載していた雑誌が休刊に。運悪く、企画が進んでいた大企業の社内教育用マンガは上層部からストップがかかり、描き進めていた単行本の企画は版元のリストラで中止に。気がつけば仕事はゼロ。家族のために、と職安に通って見つけた仕事は、時給900円の遺跡発掘作業員だった。

 現場は東京郊外にあるM大学グラウンド跡。ここでは1万5000年前の遺跡発掘が進んでいた。作業員仲間は元ロック酒場の店長や役者、画家の卵など。依頼人と同じく貿易会社をリストラされた男もいる。

 主人公のモデルはわたべ自身だ。わたべは、手塚治虫のアシスタントを経てデビュー。代表作に1988年から90年にかけて「週刊ヤングジャンプ」に連載されたちょっとエッチな学園コメディー「レモンエンジェル」などがある。そんなわたべに襲いかかったマンガ家失業体験をもとにしたのが本作なのだ。

 慣れない力仕事に苦戦しながらも、コツを覚えるうちに発掘の面白さがわかってくる。しかし、半年足らずの遺跡発掘作業のち、主人公はもう一度マンガ家としてやり直す決心をする。その気になればリベンジができるだけ、マンガ家という職業は恵まれているのかもしれない。

 依頼人も諦めずにリベンジして欲しい。フレーフレー!

 ■中野晴行(なかの・はるゆき) 1954年生まれ。フリーライター。京都精華大学マンガ学部客員教授。和歌山大卒業後、銀行勤務を経て編集プロダクションを設立。1993年に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』(筑摩書房)で単行本デビュー。『謎のマンガ家・酒井七馬伝』(同)で日本漫画家協会特別賞を受賞。著書多数。

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