朝ドラ「エール」真実の物語 父・裕而と母・金子の青春紐解く 古関裕而さん『君はるか―古関裕而と金子の恋』

 【BOOK】

 この春から始まったNHK連続テレビ小説『エール』。モデルとなったのは「闘魂こめて(巨人軍の歌)」や「六甲おろし(大阪タイガースの歌)」などで知られる作曲家の古関裕而。若き日の妻、金子(きんこ)との恋物語を長男の正裕さんがひもといた。(文・高山和久 写真・渡辺照明)

 --父の古関裕而さんと母、金子さんは“文通結婚”

 「父と母が文通で交際をして結ばれたという話は知っていたのですが、実際に手紙を見たことがありませんでした。きっと両親は他人には見せたくなくて大切にしまい込んでいたんですね。父が亡くなり資料を整理しているとき、タンスの引き出しの奥から『死後開封のこと』と書かれた袋が出てきたんです。開封すると50通あまりの手紙が残されていました。膨大にあったらしい手紙の中で、父から母あてのものは、内容によっては母が焼きもちを焼き夫婦げんか。その末に手紙を焼いてしまってほとんど残っていません」

 --本作は、約4カ月の熱烈な文通に焦点を当てた

 「2009年が裕而の生誕100周年、時系列で整理を始めて手紙に目を通すと、全く知らない両親の姿を発見しました。夢と理想と現実との板挟みの中での、悩みながらの恋愛。80年、90年前でも若者の恋愛事情は変わらない。普遍性のある物語じゃないかなと。文通だけの遠距離恋愛なので『君はるか』というタイトルにしました」

 「手紙の中にハートマークのイラストが入っているものもあり、2人の熱烈な気持ちが感じられました。物静かな父は内面には燃えるものを持っているとは思っていましたが、手紙を読んでいるうちにその情熱を目の当たりにしました。父が国際作曲コンクールで入選。英国への留学を一時は具体的に考えていたなど、チャレンジに満ちた考えも浮かびあがってきました」

 --時代背景などの描写も細かい

 「題材は手紙しかなかったというのが本音。父が南方の戦地に送られた際の手紙も数通ありましたが、文通がテーマだったので、2人の出会いまでをストーリーに。時代背景を知りたくても父母の兄弟などの親せきは亡くなり、いとこなどにも問い合わせもしましたが、自分たちが生まれる前の話ですから難しかった。資料を集めて調べながら、自分の思うイメージを重ねて書きました」

 --作風はドキュメンタリータッチ

 「2人の手紙が持つ文章の力が大きいせいではないでしょうか。この小説は(生誕100年の)11年前の9月に書き上げたのですが、出版のチャンスを逃していたんです。その間、原稿が父の地元、福島市などの関係者に読み回されていくうちに『ドラマにしたら面白い』という話になり“朝ドラ誘致運動”につながりドラマ化が決まって、出版の話も進んだのです」

 --父・古関裕而の偉大さを感じたのは

 「戦後流れていた『とんがり帽子』や『高原列車は行く』などの曲はかすかな記憶しかなく、高校生の頃、東京五輪の開会式で『オリンピック・マーチ』を聴き、いい曲だなと思ってレコードで聴いたぐらいですか。当時私は、エルビス・プレスリーやポール・アンカやコニー・フランシスなどのアメリカンポップスに熱中してましたから。父が80歳で他界し私もこの年になって、父の偉大さがわかってきました」

 --学生時代はバンド活動に没頭していたと

 「友人に誘われて、高校生の頃はカントリー・バンドに参加。大学在学中は、有名になる前の『ヴィレッジ・シンガーズ』でキーボードを担当していました。ボブ・ディラン、サイモン&ガーファンクル、ビートルズといったフォークロック。夏のビアホール、銀座ACB(アシベ)なんかのライブハウスで演奏していました。でも、父を超えられる自信がなかったので、プロにはなりませんでした」

 --現在は古関裕而さんの曲を歌い継ぐ音楽ユニットも

 「昭和のイベントに参加していくうちに父の歌を歌い継ぐことはできないだろうかと思い立ったところ、歌手の鈴木聖子さんに背中を押される感じで音楽ユニットを組みました。7年前から『喜多三(きたさん)』の名前で活動しています。『長崎の鐘』など有名な曲以外にも5000余りになる古関裕而の楽曲を新たに発掘し紹介しています。人生最後のライフワークだと思っています」

 --『君はるか』続編のお考えは

 「古関裕而伝なら書けるかもしれませんね。しかし小説となると、どの時代をどう切り取るか、戦時中の話などがいいか、選ぶのが難しいですね。アイデアが浮かべばいいのですが…」

 古関勇治(裕而)は福島県川俣町で「喜多三」という呉服屋を営む家の長男。一方、内山金子は、愛知県豊橋でオペラ歌手を目指していた。勇治が国際的な作曲コンクールに入選し新聞で報道されると、記事を読んだ金子がファンレターを書き文通が始まった。20歳の青年と18歳の乙女は約4カ月の手紙のやりとりだけで情熱的な純愛を貫き、実際に会うなり結婚した。2人が交わした書簡をもとに綴られたフィクションドラマである。

 ■古関正裕(こせき・まさひろ) 1946年、東京都生まれ。作曲家、古関裕而・金子夫妻の長男。73歳。成城学園初等学校入学後、ピアノを習い始める。65年、早稲田大学理工学部に入学。「ヴィレッジ・シンガーズ」に参加。卒業後、日本経済新聞社に入社。同社を早期退職後、再び音楽活動を開始。2009年に古関裕而生誕100年記念CD全集の企画・監修で日本レコード大賞企画賞受賞。13年、ライブユニット「喜多三」を立ち上げた。著書に小説『緋色のラプソディー』がある。

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ