マオリ族が守り続けた三火山がそびえる聖地 ニュージーランド「トンガリロ国立公園」

 【世界遺産旅行講座】

 ラグビーニュージーランド代表のオールブラックスが国際試合前に舞うハカ踊りは、マオリ族の民族舞踊で、本来は相手を威嚇する舞いですが、感謝と敬意を表す踊りといわれています。そのマオリ族の聖地とされるのが、ニュージーランド北島中央部にあるトンガリロ国立公園です。

 この公園は周辺のロトルアからタウポなどの町も含め、大地熱地帯と呼ばれる火山活動が盛んな地域にあり、世界的にも珍しい景観が見られることと、先住民のマオリ族の聖地であった文化的背景から、世界複合遺産として登録されています。

 ニュージーランドの先住民マオリは、北島の最高峰であるルアペフ山を筆頭に、ナウルホエ山、トンガリロ山の3つの山に畏怖の念を抱き、この山々にこそ「タープー」が宿っていると考えていました。

 タープーとは「聖なるもの」「荘厳なるもの」という意味で、19世紀後半、ヨーロッパ人が入植し、土地が都会と農地に分割されるようになると、マオリの人々は3つの山に宿るタープーが損なわれることを恐れました。

 そこで、当時の首長ホロヌク・テ・ヘウヘウ・トゥキノ4世は、入植者による乱開発を防ぐために、自分が預かっていた山々のタープーを、英連邦のビクトリア女王に譲り、1887年、3つの山々とその周辺の土地を保護区として、ニュージーランド政府と国民に託したのです。

 保護区となったトンガリロ国立公園内には、今日、数多くのトレッキングコースがありますが、中でも人気は「トンガリロ・アルパイン・クロッシング」と呼ばれる山岳地帯を縦走するコースで、月面のような光景が広がるクレーターや、色鮮やかなエメラルド湖など、さまざまな景観が楽しめます。

 ルアペフ山は、今も活動を続ける活火山で、数年ごとに噴火し、蒸気と火山灰の巨大な柱を噴き上げています。また、トンガリロ山もクレーターがいくつもあり、あちこちの噴気孔から硫黄臭のする蒸気が噴出し、不気味な雰囲気が漂っています。

 しかし、この2つの山の間にそびえる、映画『ロード・オブ・ザ・リング』で「滅びの山」として登場するナウルホエ山は、日本の富士山に似ており、均整のとれた美しい山容が見る者をとりこにします。

 この荒々しい地形の土地に、なぜこれほど優美な山が生まれたのか、不思議な気分になります。美しい富士山も信仰の山ですが、このトンガリロ国立公園の山々は、マオリ民族の信仰心が美しさを際立たせているような気がします。

 ■黒田尚嗣(くろだ・なおつぐ)慶應義塾大学経済学部卒。現在、クラブツーリズム(株)テーマ旅行部顧問として旅の文化カレッジ「世界遺産講座」を担当し、旅について熱く語る。

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