“イケメン貴公子”在原業平にとって「一番の女性」は… 高樹のぶ子さん『小説 伊勢物語 業平』

 【BOOK】

 歌人の在原業平(ありわらのなりひら)といえばモテる男の代名詞。この“イケメン貴公子”、思い込んだら、相手が天皇の后となる姫や神様に仕える斎宮(さいぐう)でも止まらない。数々の恋愛小説を送り出してきた高樹のぶ子さんが「雅(みやび)」に描く、平安恋絵巻…。(文・梓勇生 写真・酒巻俊介)

 --平安期の歌物語「伊勢物語」の主人公とされる業平の生涯を小説にした

 「伊勢物語は全125段の歌物語。つまり、歌(和歌)がメインで、あとは場面の説明があるだけです。最初に業平の歌が出てくることや“色男キャラ”の人物設定から、主人公(『昔男』)=業平とされていますが、時間軸が滅茶苦茶だったり、後から“入れ込まれた”ものもたくさんあります。それを小説にして、業平15歳の『初冠(ういこうぶり)』から亡くなるまでの“ひとりの男の人生”を書きたいと思ったのです」

◆憎めない“色男キャラ”

 --業平は、「源氏物語」の主人公、光源氏のモデルとも

 「高貴な身分だけど、権力構造の本筋ではないこと。(女の問題で)“ヤバい”ことになって、地方へ身を隠し、何となく許される点などは、明らかに重なりますね。うまく保身をしながら、女遊びもやめられない。(関係した女には)誠実に対応し、ちゃんと面倒も見る…。ただし、『因果応報』という点に関しては、源氏物語の方が暗いでしょう」

 --業平は、これと思い込んだ女は、どんな障害があってもモノにする

 「きっと、男として自分に正直なんでしょうね。他の男が夢中になるほど、奪いたくなるとかね。私からみたら“カワイイ男”ですよ。周りから見ても『イヤな男』ではなかったと思います。(天皇の后となることが決まっていた)藤原氏の姫・高子(たかいこ)と逃避行して捕まったときも、殺されることもなかった。『(業平は)歌を詠(よ)ませたらうまいし、まぁ、そこまでしなくても』となっちゃう。そう思わせる人間性、純粋さがあるんですね。“愛されキャラ”ですから」

 --禁忌(タブー)を冒して、神様に仕える伊勢神宮の斎宮まで相手にし、子供まで

 「手に入らないものだと思うと、よけいに欲しくなるのかも(苦笑)。まぁ、この場合、斎宮の方がわざわざ夜にやってきて(業平の)寝所に忍んできたわけです。『もう、このときしかない』ってね。業平も、その思いをかなえてあげたい。(権力闘争の犠牲になって)斎宮にならざるを得なかった女性への哀れみが、愛に替わったということでしょうか。この場面は、とても美しいと思いますよ」

 --いろんな女と関係する中で、業平にとって「一番の女性」は誰だったのでしょう

 「高子でしょうね。彼女は『大きくて強い女』です。逃避行から連れ戻され、天皇の后となった彼女は、子を産み“天皇の母”となった。すると“昔の恋人(業平)”を使って、古今和歌の世界を構築し、その“サロンの女王”となるのです。2人の間には『共感』があったと思いますね。私は、どっちかといえば“高子タイプ”かな。何かに向かってアレンジする。小説を書くという行為もそうです」

◆次作も「平安」舞台で

 --それにしても、小説として完成させるまでには苦労したのでは

 「そうですね。小説といえども、荒唐無稽なフィクションにはしたくなかったので、いろんなことを調べるのには苦労しました。5年はかかったでしょうか。でも、平安という時代は面白い。今の日本という国の原型ができた時代だと思うからです。皇室の行事や文化、服装などもそうでしょう。この次も、平安を舞台にした一代記を小説の形で書きたい、と考えています」

■高樹のぶ子(たかぎ・のぶこ) 1946年、山口県出身。74歳。東京女子大短期大学部卒。80年「その細き道」で作家デビュー、84年『光抱く友よ』で芥川賞を受賞。95年『水脈』で女流文学賞、99年『透光の樹』で谷崎潤一郎賞、2010年『トモスイ』で川端康成文学賞を受賞した。紫綬褒章、旭日小綬章受章。18年文化功労者。

■『小説 伊勢物語 業平』

 平安期の歌物語「伊勢物語」の主人公とされる実在の歌人、在原業平の一代記を小説として描く。高貴な身分(天皇の孫)にありながら、主流にはなれず、「恋と歌」を追い続ける業平。ついには、時の天皇の后となる運命の藤原氏の姫との逃避行まで…。後に書かれた源氏物語にも大きな影響を与えた“雅な恋愛記”を、現代きっての恋愛小説家が、新たな視点から紡ぎ上げる。

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