講演会に行く途中で道に迷い徘徊… さりげなく声をかけてくれた女性に救われた

 キョロキョロしながら、道路の段差につまずいた。そのとき、向こう側から歩いてきた中年女性が声をかけてくれた。

 「何かお困りですか」

 ぼくはアイパッドを開き、画面の地図を示して言った。

 「ここに行きたいのですが、わからなくて」

 喉はカラカラで、かすれた声しか出ない。女性は、

 「私もその近くまで行きますから、一緒に行きましょうか」

 相当間違った道を進んでいたようだ。目的地の近くまで正しいルートを導いてくれた彼女は混乱の極みにあったぼくにとっては救いの神だった。あのひとが現れなかったら、ぼくは「徘徊」を続けていたかもしれない。

 もともとぼくは方向オンチで、地図が読めない男に属する。東京でも初めて行く場所でしばしば道に迷う。体内のナビゲーターが不良品で自分のいる位置や方向がわからなくなってしまうのだ。尋ねればいいとよく言われるのだが、東京で通りがかりの人に道を聞いても「ちょっと急いでいるので」とスゲなくされて傷つく。混乱状態になることもある。

 認知症の人の「徘徊」もどこかを探して歩き回っているに違いない。似たような経験を持つぼくは、そう思う。そのときに神戸で会った女性のようにさりげなく声をかけてくれる誰かがいれば…。心が落ち着けば自分を取り戻せるのだ。

 ■山本朋史(やまもと・ともふみ) 1952年生まれ。週刊朝日編集委員などを経て現在はフリー。2014年軽度認知障害と診断され早期治療に励む。著書に『悪党と政治屋 追跡KSD事件』『認知症がとまった ボケてたまるか実体験ルポ』など。

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