「心臓病で死なない社会を」大阪大の澤芳樹教授 iPS心筋シートでの再生治療

 「助けられない命をたくさん見てきた。心筋シートで一人でも多くの心不全の方が助かれば」

 1月、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から心筋細胞を作り、シート状に加工して重症の心不全患者に移植する治験を世界で初めて手掛けた。シートによる心筋再生治療研究を始めてから苦節20年、長い道のりだった。

 「人間くさいことがしたい」と医学部へ進学したが、医学に本腰を入れたのは国家試験が迫った6年になってから。中学高校とバスケットボール部に所属し、体力には自信があった。

 「医療は体で覚える」と外科を選び入局したのは、厳しいことで有名な第一外科。数々の手術法を世界に先駆けて手掛けた川島康生氏をはじめ、大先輩が名を連ねる。「自分は何をすべきか」。重圧を感じながら導き出した答えが、心筋シートだった。

 悔しい思いをした手術は数知れない。どんなにいい人工心臓があったとしても保険が適用できず、救えなかった命もある。そうした中、初めて手掛けた症例の手術で、患者から言われた言葉が今も忘れられない。「余命3カ月。先生らの実験台になって死ぬなら本望や」。手術は成功し、患者はその後数年間生きた。

 心筋シートは、実用化に向けて第一歩を踏み出したばかりだが、その先に、救える命はたくさんある。「心臓病で死なない社会を作りたい」。情熱を支えるのは、切実な願いだ。(江森梓)

 昭和55年大阪大医学部卒、平成18年から大阪大教授。外科医として医療現場に立つ傍ら、重症心不全に対する再生治療の研究に心血を注ぐ。日本医師会医学賞などを受賞。大阪府出身。

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