第162回直木賞 川越宗一さん、歴史に翻弄される樺太舞台に骨太な物語 2作目で受賞 「熱源」

 明治から先の大戦終結頃までの樺太(現サハリン)を舞台につづった小説「熱源」で、直木賞の栄誉をつかんだ。

 主人公は、樺太アイヌの誇りを胸に生きたヤヨマネクフ(後の山辺安之助)と、アイヌの研究に尽力したポーランド人、ブロニスワフ・ピウスツキ。2人を軸に、日本やロシアの同化政策に苦しむ“少数派”の生きようを描いた。強国に翻弄され、自らのアイデンティティーを問い続け、もがくさまは、現代にも通じるテーマだ。「そうした事実(同化政策)があったことに今なら問題意識も感じるが、当時は正しいこととされていたのがしんどい」

 美しいアイヌの生活風景に、登場人物たちの息遣いまで聞こえそうな筆致も評価が高い。特に、今作の鍵となる雪を描くにあたっては、取材で北海道の寒波に遭遇した思い出もあり、まるで映画を見ているように目の前に迫ってくる。

 わずか2作目での受賞という快挙だが、現在も専業作家ではなく、カタログ通販会社の社員との二足のわらじを履く。「朝、小説を書いて、午後から会社に時短勤務している。外に出て色んな人としゃべらないと小説自体が痩せ細っていく」と、しばらくは専業作家とならないことを示唆。一方、「今後は売れ行き次第」とおどける場面も。

 歴史小説作家として、揺るぎない評価を得たが、小説を書く苦労も吐露する。「歴史小説は史実を伝えるには不向き。でも、今自分が住む世界について考えるきっかけになるものが書けたら」。次作への期待が高まる中で、模索する日々が続きそうだ。(加藤聖子)

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