ナニワに「リトルベトナム」1900人 昨年末から300人増

 大阪府八尾市は多くのベトナム人が集まることで知られる。市内にはベトナムの料理店や食材を扱う店が点在し、「テト」と呼ばれる旧正月にはベトナム式の祭りも行われる。今年に入ってからは同国の転入者が急増するなど、八尾の町にすっかり定着した「リトルベトナム」は、どのように形成されてきたのだろうか。(桑村朋)

民家を改装した寺院

 JR八尾駅から徒歩約10分の高美地区。閑静な住宅街の中を歩くと、飲食店などの看板に見慣れないベトナム語が目につく。ただ、意識して通らないと見逃しそうなほど、どの店も町に溶け込んでいた。

 ある行き止まりの角に足を踏み入れると、青や黄、赤などのカラフルな旗で彩られた民家風の建物があった。ベトナム仏教寺院の「福光寺」だという。中では近所のベトナム人らが談笑したり、お祈りしたりしていた。

 「ここは日本で暮らすベトナム人にとっては貴重なコミュニケーションの場です」。八尾ベトナム人会会長のレ・フン・クンさん(58)が教えてくれた。

 福光寺は4年前、民家を改装して造られた。本国から運んだ仏像が置かれ、日本という異国で心を寄せる貴重な祈りの場であり、ベトナム人同士の交流の場にもなっている。

 周辺には、ベトナムの国民食「フォー」やサンドイッチ「バインミー」が楽しめる飲食店や、現地食材を販売する店、カラオケやビリヤード喫茶店など十数店舗が点在する。いずれも主な客はベトナム人だが、レさんは「最近は日本人にも徐々に知られるようになってきた」と喜ぶ。

始まりはボートピープル

 なぜ数ある地域の中で八尾にベトナム人が集まるようになったのか。その始まりは約40年前までさかのぼる。

 八尾市文化国際課などによると、1975年のベトナム戦争終結後も国内は混乱が続き、多くの国民が危険を避けるため、祖国を離れる決断を迫られた。海に脱出先を求める「ボートピープル」が続出し、何十人もがすし詰め状態の小舟で命がけで他国へ逃れた。

 こうした人々を含む「インドシナ難民」の受け入れを、日本も78年に決定。翌年から多くのベトナム人が来日し、空きのあった八尾市の雇用促進住宅にも80年前後に3~5家族が入居した。これが八尾とベトナムの関係の始まりだった。

 その後は本国の家族を呼び寄せるなどして八尾に来るベトナム人が徐々に増え、2014年には1千人を突破。これまで毎年100人前後の増加だったが、特に今年は伸びが大きく、10月1日時点で昨年末から300人以上増の1907人のベトナム人が暮らす。

SNSで広がる魅力

 八尾がベトナム人をひきつける理由は何か。

 レさんは「ベトナム人が多い上に、八尾の日本人も親切で住みやすい」と話す。ベトナム人は会員制交流サイト(SNS)のフェイスブックで情報共有するケースが多く、「口コミがSNSで広がり、最近は他の町から移り住む人も多い」という。

 ベトナム人らに支援を行うNPO法人「トッカビ」(同市)によると、八尾は特定の学校にベトナム語話者を配置するなど、生活支援が充実しているという。代表理事の朴洋幸(パク・ヤンヘン)さん(50)は「子育てもしやすく、多言語での情報発信が細かいのも、八尾を目指す要因だろう」と話す。

 また、八尾ベトナム人会では旧正月にベトナムの獅子舞「ムーラン」を毎年実施。旧暦で8月の中秋節は、府内のベトナム人の子供らが集まり伝統の踊りを楽しむ。こうした本国さながらの雰囲気を感じられる行事が多い点も「安心感につながっているのでは」(朴さん)という。

 今年4月には、外国人労働者の受け入れ拡大を目指す改正出入国管理法が施行され、新在留資格「特定技能」の運用などがスタート。今後はより多くのベトナム人が転入することも予想される。市の担当者は「外国人が地元に溶け込みやすい環境づくりと、違いを認め合う多文化共生の推進に一層努めたい」と話している。

異国情緒、町に溶け込む

 関西には、大阪府八尾市のような特定の国籍を持つ外国人が集中する「外国人タウン」が少なくない。

 「チャイナタウン」で有名な場所は神戸市中央区の中華街「南京町」だ。1868年の神戸開港時に誕生した。当時の清国は日本と条約を結んでおらず、外国人居留地に住めない中国人が居を構えたのが始まりだ。戦後に再整備され、今ではギョーザや牛肉麺など本場の料理が楽しめる店が軒を連ねる一大観光地に発展した。

 韓国系では、JR鶴橋駅周辺にある大阪市生野区の「大阪生野コリアタウン」がよく知られる。韓国・朝鮮風の焼き肉店や食材販売店など約120店舗が所狭しと並び、あちこちで韓国語が飛び交う。生野区の韓国・朝鮮籍の割合は全区民の2割弱と、他市に比べても飛び抜けている。

 また、ベトナム人が多いエリアとしては、八尾市以外では兵庫県姫路市が有名だ。同市仁豊野に1979年、ベトナム人らのインドシナ難民に日本語などを教える「定住促進センター」が日本で初めて作られた。市内のベトナム人は全外国人数の約3割を占め、八尾市の2割強よりも多い。

 一方、インド人が多いのは神戸市。繁華街の三宮や元町周辺にはヒンズー教などの寺院やインド料理店が点在し、インド人街を形成する。また、大阪市西淀川区の阪神千船駅周辺では、最近になってパキスタン人が急増。「大阪マスジド」というモスクがあり、各地の同国人が礼拝に訪れる。パキスタン料理店なども多く、「ニシヨドスタン」などと呼ぶ人もいるほどだ。

 【プロフィル】桑村朋(くわむら・とも) 平成22年入社。京都総局や姫路支局、神戸総局を経て、現在は大阪社会部の遊軍記者として、軟派から硬派までさまざまな分野を幅広く取材する。今年8月に1年間の中国留学を終えて帰国し、中国関係のテーマにも興味がある。趣味はテニスと飲み歩き。

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