「研究者に必要なのは執着心と柔らかさ」 ノーベル賞の吉野彰さん

 リチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞に輝いた旭化成の吉野彰名誉フェロー(71)。研究に対する考え方や、産官学の連携のあり方などについて、これまでの発言をまとめた。

 --研究を成功させるためには何が必要か

 「研究者には2つの側面が必要。1つは執着心。壁にぶつかってもすぐに諦めないこと。そして逆に柔らかい、能天気な面。それらのバランスをうまく取ることが必要だ。とがった部分と柔らかい部分ともいえる。自分ではそれらの両方を持てたと思っている」

 --研究開発の成功の条件は

 「極めて簡単で、技術のシーズ(種)と世の中のニーズ(需要)を結ぶだけだ。それを非常に難しくしているのは、両者がしょっちゅう変わること。それに合わせて動かないといけない。技術に固執するとニーズから外れてしまう。針の穴に糸を通すという言葉があるが、研究の難しさは、ジェットコースターに乗りながら糸を通すようなものだ。そこをいかに見極めるかだ」

 --今後の夢は

 「リチウムイオン電池のさらなる貢献だ。モバイル社会、IT社会が実現してきたのはうれしい。これからは中身が変わり、車載用などで資源、環境エネルギー問題の一つの解決策を出すことだと思う」

 --現代の若者が身につけるべき能力は

 「観察力と洞察力だ。観察とは、例えば実験でこうなったと理解すること。洞察はなぜ、どういうメカニズムでそうなったのかを考えること。現代社会はインターネットのせいで情報過多の状況にある一方、若者は情報の中身の洞察力を欠いている。ネット社会だからこそ、若者は洞察力を身に付けるべきだ。観察力はいわば監視カメラで、洞察力は物が透けて見えるエックス線カメラ。2つのカメラをうまく使ってほしい」

 --田中耕一さん以来の産業界からの受賞となる

 「誰が最初に提案した技術なのか証明するには、アカデミア(学術界)の人は論文で明確に示せるが、産業界は特許で示すしかない。これはなかなか難しい。産業界のハンデとなっていて、ノーベル賞はアカデミアの人の受賞が多い。今回、企業が製品を出して世界を変えたことを評価してもらえたのは産業界の励みになるし、意味がある」

 --科学研究で産官学の連携を成功させるには

 「産業界がリーダーシップを取り切れていない。本来は大学や国の研究機関をリードしなくてはいけない。産業界が研究テーマを与え、予算を付けて研究をしてもらい、成果が出ればきちんと実用化に持っていく。旗振り役となることが必要だ」

 --基礎研究と応用研究のあり方は

 「研究者は役に立たない研究を一生懸命やってほしい。目的があってするのではなく、好きな研究をする。そのほとんどは無駄になるが、無駄をやらないと、とんでもないものは出てこない。千に一つ大きな成果が出ればいいと割り切るべきだ。数年後に何をやるか目標が決まっている研究は、100%達成するつもりで取り組まなければならない。この両輪が必要で、2つは徹底的に分けて考えないと成果につながらない。現状は中途半端な研究が多いと感じている」

(科学部 草下健夫、松田麻希)

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