ノーベル化学賞・吉野氏の電池革命、モバイル社会を実現

 半導体や液晶などと並んで電子機器の心臓部の役割を果たし、私たちの生活に欠かせない存在となっているリチウムイオン電池。小型で高性能という優れた特徴があり、電池の用途と社会を大きく変革させた。

 電池の開発は200年以上の長い歴史がある。イタリアの化学者ボルタが1800年、2種類の金属を電解液に入れて電気を発生させたのが始まりだ。明治20(1887)年ごろには時計店員の屋井(やい)先蔵が、持ち運んでも電解液がこぼれない乾電池を発明し、使い勝手を高めた。

 繰り返し使える充電池は鉛蓄電池が最初で、1960年代にはニッケル・カドミウム電池が普及した。90年代に入ると有害物質のカドミウムを使わないニッケル水素電池が開発されたが、電圧が1・2ボルトと低いなどの課題があった。

 吉野彰氏らが開発したリチウムイオン電池は、過去最高の性能を発揮する画期的な充電池で、モバイル型の電子機器を急速に普及させたIT(情報技術)社会の立役者だ。

 吉野氏は家庭用ビデオカメラで連続2時間の撮影を可能にすることを目指して開発に着手。平成3(1991)年、ソニーが初めてのリチウムイオン電池を携帯電話に搭載した。翌年にはビデオカメラに採用。小型で高電圧、充放電を繰り返しても性能があまり落ちないなどの優れた特徴が注目され、さまざまな携帯機器に使われるようになった。

 インターネットが企業や家庭に普及すると、ノートパソコンを長時間使うための電源として支持を集めた。電子機器の小型軽量化を加速する原動力ともなり、IT革命と呼ばれる技術革新の流れに乗って、デジタルカメラやスマートフォンなどの爆発的な普及を後押しした。

 リチウムイオン電池の開発では、白川英樹氏が発見した導電性プラスチックのポリアセチレンに、吉野氏が負極材料として目をつけ、後に炭素材料に行き着いた。一方の正極材料も、英オックスフォード大で指導を受けた東芝エグゼクティブフェローの水島公一氏が開発に大きく貢献している。日本人の活躍の上に実現した電池だ。

 リチウムイオン電池がもたらした変革は、機器開発のハード面だけではない。携帯型の情報機器を活用した新たな商取引やサービスが登場したほか、人々のコミュニケーションのあり方まで変えてきた。登場から四半世紀が過ぎたが、今後も新しい製品と価値観を生み出し、社会を進化させる潜在力を持っている。(草下健夫)

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