「皇統が日本社会の安定築く」麗澤大・八木秀次教授 和歌山「正論」懇話会

 和歌山「正論」懇話会の第97回講演会が3日、和歌山市のホテルアバローム紀の国で開かれ、麗澤(れいたく)大学の八木秀次教授が「令和の御代(みよ)と日本の針路」と題して講演した。126代にわたって続く皇統が日本社会の安定と持続性を築き、「日本人の勤勉や努力を尊ぶ国民性にも影響した」と指摘。安定的な継続には女系継承の道を拓(ひら)くのではなく、「旧宮家の皇籍復帰を政府は正式に検討しなければならない」と語った。(講演要旨は次の通り)

■「令和」への思い

 5月1日に新しい天皇陛下が即位され、それに伴い元号が変わった。「令和」は、『万葉集』に収められた歌の序文「初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)にして、気淑(よ)く風和(やわら)ぎ」という部分が出典だ。

 注目したいのは、この序文がどういう背景かということ。描かれているのは天平2(730)年正月(旧暦)に、九州・大宰府の長官、大伴旅人の屋敷で梅の花を愛でる宴の様子だ。

 天平2年は防人(さきもり)が停止された年。防人は、唐・新羅の連合軍と戦った白村江の戦い(663年)を経て、国家存亡の危機に国土防衛のため導入されたものだ。その防人が、国際情勢が変わって停止され平和が訪れた。

 この歌は、その状況を描いている。平和が訪れ、薫り高い文化が花咲く、そういう時代になってほしいとの願いが込められている。

■「民の父母」として

 天皇陛下は、5月1日の「即位後朝見の儀」で、次のようなお言葉を述べられた。

 「ここに、皇位を継承するに当たり、上皇陛下のこれまでの歩みに深く思いを致し、また、歴代の天皇のなさりようを心にとどめ、自己の研鑽(けんさん)に励むとともに、常に国民を思い、国民に寄り添いながら、憲法にのっとり、日本国及び日本国民統合の象徴としての責務を果たすことを誓い、国民の幸せと国の一層の発展、そして世界の平和を切に希望します」

 また、平成29年2月の57歳のお誕生日を前にしたご会見では「飢饉(ききん)や疫病の流行に心を痛められた後奈良天皇が写経された般若心経(はんにゃしんぎょう)の奥書には『私は民の父母として、徳を行き渡らせることができず、心を痛めている』旨の天皇の思いが記されておりました。私自身、こうした先人のなさりようを心にとどめ、国民を思い…」と語っておられる。新天皇は、歴代天皇にならい、「民の父母」であることを自覚されている。

 日本の社会が安定し、持続性があるのは、天皇を戴(いただ)く国家体制だからこそ。皇位が126代も続いていることが、それを何より示している。

 社会の安定は、日本人の勤勉や努力を尊ぶ国民性にも影響している。大きな戦乱が起き、社会が乱れるのであれば、中国や朝鮮のように人をだます方がよいという風潮になっていく。

 日本では、権力争いはあったが、歴史上、天皇の地位を脅かす権力者は存在しなかった。天皇は、ときの権力者を認証する立場にあった。「権力」と「権威」の分離といえるだろう。

 その結果、勤勉や努力を尊ぶという国民性が育まれた。普段あまり意識しないことではあるが、天皇の存在がこの日本社会をこれだけ安定させてきたということになる。

■男系での継承を一貫

 その皇室の持続性が危うくなっている。現在、皇位の継承権者は高齢の常陸宮様を除き事実上2人。悠仁親王の時代には皇族がいなくなるのではないかと心配されている。

 そこで一つの考え方として、「女性天皇」、それから女性天皇と皇族でない夫との間に生まれたお子様が継承される「女系天皇」、内親王の方が結婚しても皇族に残るという「女性宮家」の創設が検討されている。

 しかし、皇位継承には確立した原理がある。それは初代以来一貫する男系での継承だ。男系とは、父方だけをさかのぼれば皇室と血のつながりがあること。今に至る126代の天皇は例外なく初代以来の男系の血を継承している。

 それに対し、女系というのは民間人となる血筋。われわれ一般国民のことになる。その女系に天皇への道を拓けば必ず争いが生じる。そのことによって、この安定した日本社会の一番の根幹部分に争いが生じる。

 「皇統」は一系統ではなく、男系による複数の系統が「世襲親王家」として用意されてきた。その時々の天皇の男系が絶えると、別の系統の男系(世襲親王家)が皇位を継承した。

 皇位はあくまで男系で継承されている。ある男系の血筋が途絶えようとしたならば、さかのぼって別の男系で続けるという厳格な原理がある。男系継承という血統原理で決まるがゆえに争いが生じない。それが天皇の天皇たるゆえんで、正統性の根拠といっていい。

 旧宮家の男系男子孫は、「もう一つの皇統」として皇位継承の資格がある。旧宮家の皇籍復帰は、皇室の持続可能性を考える意味で、政府として正式に検討されなければならない。

■厳しい国際情勢

 くしくも今の日本は、白村江の戦い当時の緊迫した状況になってきている。中国が、南シナ海に続き東シナ海の覇権を手にしようと、毎日のように尖閣諸島に近づいている。韓国は中国を恐れ、アメリカではなく中国に向こうとしている。

 こうした厳しい国際情勢のなか、祖先が築いてきた国を壊すことなく継承していくには、どうすればいいのか。御代替わりは、日本の国柄を再認識するうえで、最良の機会といえる。

     ◇

 【プロフィル】八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 昭和37年生まれ。早稲田大法学部卒、同大大学院政治学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専攻は憲法学。国家や教育、歴史、皇室などについて幅広い言論執筆活動を行い、内閣官房・教育再生実行会議有識者委員などを務める。

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