月平均1万5000円ほどで済む? 「老後2000万円」問題、政府は医療費を低く見積もりすぎだ

続・長生きは本当に幸せか?

 いまさらながら、「老後2000万円不足」の問題では国民の不安が募っています。これまでさまざまなことが言われてきましたが、私が指摘したいのは医療費です。

 金融庁の報告書によると、前提となるのは、年金暮らしの「夫65歳以上、妻60歳以上の無職の夫婦の世帯」で、この夫婦が20~30年生きるとすれば、年金収入と支出の差額は単純計算で計1300万~2000万円となるというのです。月にすると、約5万5000円不足です。

 金融庁が試算のベースとした「高齢夫婦無職世帯の収入・支出」のグラフの内訳を見ると、実支出のうち保険医療費は、なんと1万5512円しかありません。

 これは、いくらなんでも低すぎないか? というのが、私の実感です。

 現在、日本人の「平均寿命」は女性が87・32歳、男性が81・25歳です。その前に「健康寿命」というものがあって、平均寿命より10年ほど早くきます。つまり、そこからは健康でなくなる可能性が高いので、医療費はかさみます。すべておしなべて、月平均1万5000円ほどで済むのでしょうか?

 いまや男性は3人に2人ががんになるので、がんになった場合を想定します。厚労省の医療給付実態調査(2015年)によると、大腸がんの入院費用は63万6557円、入院外費用は19万967円となっており、合計約83万円。医療費の自己負担を一般的な3割とすれば、約26万円、がんになったら覚悟しなければなりません。もちろん、この全額を払うわけではありません。高額療養費制度が適用されれば、現役並みか一般の所得の人は、最終的に1カ月当たり4万4400円の負担で済みます。入院時の食事負担、差額ベッド代など加味すると、さらに負担は増します。

 1人が生涯で必要とする平均医療費について推計した厚労省の「生涯医療費」という調査では、一生のうちに必要とする医療費は2600万円です。その割合を年代別に見てみると、90代で7%、80代で20%、70代で21%、60代で15%となっています。つまり、70~80代がもっとも医療費がかかるのです。

 次に介護を見てみます。要介護者の発生率は、40~64歳では0・4%、65~69歳では3・0%ですが、加齢とともに急速に高まり、80~84歳では28・0%、85歳以上では60・1%となっています。介護費用も考慮する必要がありますね。

 生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」(18年度)によると、介護期間は平均54・5カ月(約4年7カ月)で、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は、月額7万8000円。介護費用は認定度によって違いますが、在宅で最悪の「要介護5」だと、1カ月に支給される上限金額は36万650円に決められています。介護保険の自己負担額は1割(一部の高所得高齢者は2割負担)なので、毎月約3万6000円となり、これにヘルパー依頼や各種用具の購入・貸与、住宅改修など、保険ではカバーしきれない費用もかかるわけです。

 しかも、介護保険、国民保険などの健康保険(75歳からは後期高齢者医療保険)は、介護・医療を受ける側になろうと、死ぬまで払わなければなりません。

 もちろん、健康かどうかは個人差がありすぎます。しかし、このように見てくると、政府はわざと医療費を低く見積もったとしか、私には思えません。

 ■富家孝(ふけ・たかし) 医師、ジャーナリスト。1972年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営の後、「ラ・クイリマ」代表取締役。早稲田大学講師、日本女子体育大学助教授などを歴任、新日本プロレスリングドクター、医療コンサルタントを務める。『不要なクスリ 無用な手術 医療費の8割は無駄である』(講談社現代新書)、『ブラック病院』(イースト・プレス)など著書計67冊。

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