純アリスさん 最期まで“永遠のアイドル”イメージを大切に…

 【ドクター和のニッポン臨終図巻】

 今やアリスといえば広瀬アリスさんですが、私たちの青春時代は、純アリスさんでした。1953年生まれ。72年に岡崎友紀さん主演のドラマ『ママはライバル』に出演し、一躍人気を博しました。スタイル抜群、コケティッシュなイメージで、その後は東京キッドブラザーズに入団、グラビアやCMでも大活躍されました。

 先月、突然の彼女の訃報が流れて、青春時代を回想しています。純アリスさん、7月12日に逝去。死因は「がん」とのことでした。

 「何のがん?」と気になる人もいるかもしれません。しかし、どこのがんかは発表してはいないようです。「死因」というのは、あくまで社会的なもの。

 本人や家族が、発表したくないと思ったことは、発表しない自由があります。2人に1人ががんになるというのに、いまだこの国では、「がん家系」というだけで差別的な目を向ける人もいるからです。

 がん闘病中に離婚を迫られたとか、がん家系だとわかった途端に婚約破棄されたとか、そんな相談を受けたことがあります。もう令和だというのに悲しいかぎり。

 誰かが病気になった途端に、態度が変わる人間や付き合いをやめてしまう人間を、私は最も軽蔑します。もちろん、逆の場合は賛成です。病気になったことで、本当に大切な人がわかり、人間関係を断捨離したと言う人は多くいます。私もきっと、そうするでしょう。もしも「がん」で差別を受けた人が周りにいたなら、自分がなったときは、秘密にしておこうと思ってもおかしくはありません。もしくは、将来、子供の結婚や就職に支障が出ることを心配し、内緒にする人もいるでしょう。

 いいえ、がんだけではありません。認知症で亡くなる人もたくさんおられますが、この連載117回の中で、死因を認知症と発表されたのは、女優の朝丘雪路さんだけでした。在宅看取りの現場でも、「認知症は恥ずかしいから、死亡診断書には他の病名で書いてほしい」とご家族から頼まれたこともありました。

 私は、がんも、認知症も、誰もが堂々と公表し、明るく闘病できる社会にしたいと願い、啓蒙活動をしているのですが、なかなか世の中はそう簡単には変わりません。

 しかし純さんの場合は、偏見を気にしたというよりも、もしかすると、永遠のアイドルとして存在したくて、あえて詳細を公表しなかったのかなあと想像しました。

 夫で俳優の三浦浩一さんは「3人の子供たち、そして周りで支えて下さった皆さんのお陰で、幸福な最期だったと思います」とツイッターで報告されました。

 若い頃のアイドルのイメージを壊してほしくないという願いもリビングウィルではないでしょうか。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。

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