作詞家・千家和也さん 「ひと夏の経験」「年下の男の子」など…遺した歌は永遠に

【ドクター和のニッポン臨終図巻】

 「あなたに~女のコのいちばん、大切な~モノをあげるわ~」

 衝撃的な出だしで始まる山口百恵さんのこの曲がヒットしたのは1974年、16歳のときです。…いちばん大切なモノって、何なん? ドギマギしながらこの歌を同じ16歳の私は聴いていました。

 70年代の昭和歌謡は、今の歌よりずっと甘酸っぱく、歌詞がドラマチックだったと感じるのは、私が年をとった証拠でしょうか。

 その70年代歌謡の立役者であった作詞家の千家和也さんが、6月13日に都内の病院で亡くなられました。享年73。死因は食道がんとのことです。

 大学卒業後、なかにし礼さんに師事した後、独り立ち。1972年に奥村チヨさんに提供した〈終着駅〉で日本レコード大賞作詞賞を受賞。一躍売れっ子になります。

 先に紹介した山口百恵のヒット曲〈ひと夏の経験〉〈青い果実〉をはじめ、麻丘めぐみの〈芽ばえ〉〈わたしの彼は左きき〉、キャンディーズの〈年下の男の子〉、はたまた〈魔女っ子メグちゃん〉などのアニメソングなど、ヒット曲を紹介するだけでもこの原稿が終わってしまいそうなすごい人です。

 千家さんの命を奪った食道がんは、かなり進行するまで自覚症状がほとんど出ないため、早期発見がむずかしく、タチの悪いがんの1つと言われています。

 わが国では、年間2万人が新たに診断され、1万人強の人が死亡しています。食道がんには主に2種類があり、扁平上皮がんと腺がんに分けられますが、日本人は9割が扁平上皮がんです。また、圧倒的に男性がなる確率が多く、飲酒と喫煙でリスクが高まることがわかっています。過度に熱い飲み物を好む人も要注意です。

 飲むと顔が赤くなるけどもお酒が大好きという人は、ぜひ定期的に内視鏡で胃だけでなく食道もよくみてもらってください。毎年バリウムを飲んでいるから大丈夫、と考えるのは危険です。バリウムで早期の食道がんを発見することは容易ではありません。

 最近、NBI(狭帯域光観察)という内視鏡が普及し、食道がんの早期発見例が増えてきました。内視鏡の先から特殊な光が照射され、通常の内視鏡観察では発見が困難な平坦(へいたん)な食道がんや咽頭がんも見つかるようになりました。NBIで早期発見され内視鏡切除でがんを根治できるケースが増えています。侵襲が大きい外科手術に比べて格段に負担が少ないです。

 千家さんの場合は残念ながら早期発見が叶わなかったのでしょう。しかし彼が遺した歌は永遠。今も日本のどこかで誰かが歌っています。私が大好きな内山田洋とクールファイブの〈そして、神戸〉も千家さんの作品。そしてひとつが終わり…今から三宮で歌って参ります。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。

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