予後に大きく影響…「せん妄」3日以上続けば認知症リスク12倍!?

【手術や入院時に覚えておきたい「せん妄」のリスク】

 意識障害の「せん妄」は、手術後や入院中に起こりやすい。急に暴力的になって暴れたり、まったくしゃべらなくなりボーッとしたり、家族のことも分からなくなったりするため、家族がショックを受けることも多い。

 高齢者に多く発症するため、これまでは時間がたてば自然に治まる、可逆性(元に戻る)の症状だと思われてきた。しかし調査・研究を進めていくと、せん妄を発症した人としない人では、その後の状態が大きく変わることがわかってきた。

 2010年に行われたメタアナリシス(複数の研究を統合・解析)によると、せん妄になった人のリスクは、次のようになる。

 ■死亡リスク 1・95倍

 ■施設入所リスク(自宅に帰れない) 2・4倍

 ■認知症発症リスク 12・52倍

 せん妄に詳しい、日本医科大学武蔵小杉病院精神科の岸泰宏教授は、せん妄の死亡リスクについて、こう説明する。

 「ICU(集中治療室)に滞在した人の6カ月後を調査した研究によると、せん妄になった人とならなかった人での死亡率は、20%くらい違います。別のデータでは、10日間以上せん妄だった人は、2年後の生存率は10%台と、かなり亡くなっています」

 直接の死因は、もともと持っていた疾患やその合併症によるが、せん妄になると、その後の状態に悪い方向に影響するのだ。

 せん妄は直接原因、背景因子、促進因子が複雑に絡み合って発症する。身体疾患や手術、薬物(鎮静薬)などは直接原因だ。背景因子として高齢であったり、慢性脳疾患の存在があったりしたときに、発症しやすくなる。さらに次のような〈促進因子が存在すると、せん妄が発症する危険性が高まる。

 ■疼痛(痛み)などの身体症状

 ■断眠(眠れない・睡眠の質が悪い)

 ■感覚遮断または過剰(ICUに入るなど)

 ■不動化(身体拘束など)

 ■心理社会的ストレス

 「病院の在院日数をいちばん増やす要因も、せん妄です。患者さんの予後はもちろん、国の医療経済的にも、見過ごせない問題です」

 死亡リスクとは別に、家族にとって大きな問題なのが、施設入所リスクや認知症の発症リスクだろう。さらには、すでに軽度の認知症になっている人がせん妄を発症すると、認知症の重症度が進むことが分かっている。

 たとえば2009年の研究では、アルツハイマー型認知症を患っている入院患者263人を1年間追跡調査したところ、退院1年後で認知機能低下速度は、2倍のスピードで進むということが報告されている。

 元気になってほしい、長生きしてほしいと思って手術や入院を勧めたのに、治療目的の病気は治っても、認知症や介護が必要な状態になれば、家族としては複雑な心境だ。

 これだけ大きなリスクがあるのなら、積極的に予防や治療をしたいところだ。岸教授は「せん妄のメカニズムは研究が進められているが、まだはっきりとは解明されていない」という。

 「治療法については、残念ながらエビデンスレベルの低いものが多い。しかし予防については、非薬物療法を系統立てて根気よく続けていくことで可能です。薬物でも可能性のあるものが出てきました」

 次回は、せん妄予防と睡眠について。(石井悦子)

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