「自費リハビリ施設」急成長 お金をかけても脳卒中からの復活目指す

 【近ごろ都に流行るもの】

 「脳卒中」と総称される脳血管疾患の患者数は全国で111万人超(平成29年、厚生労働省調査)。働き盛りの発症も少なくないが、機能回復途上で病院を出される「リハビリ難民」問題が顕在化している。背景にあるのは医療費削減という喫緊の国家的事情だが、そんな“難民”の受け皿として広がっているのが、保険適用外の「自費リハビリ施設」だ。VR(仮想現実)やロボットなどの先端技術も導入したオーダーメード対応が特色。高い費用を払ってでも元の生活に戻りたい。そんな願いが新業態を急成長させている。(重松明子)

 「足首の角度を意識して」。理学療法士に声をかけられながら、ゆっくりと杖(つえ)をついて歩く。豊田雄彦さん(56)は不動産会社の営業で飛び回っていた一昨年末、職場で倒れた。脳出血だった。

 「一生寝たきりかも…とまで言われたが、自宅近所を散歩できるまでに回復できました」と豊田さん。リハビリ病院を経て自費の「脳梗塞リハビリセンター」池袋店(東京都豊島区)に通って1年になる。目標は仕事復帰だ。「今、(2千万円問題で)議論を呼んでいる老後資金を先取りして費用に充てているので、なんとか、もうひと稼ぎしないといけません」

 標準料金は1回2時間×週2回、2カ月間通って29万7千円。豊田さんの場合、年間で約180万円使った計算になる。

 脳梗塞リハビリセンターを展開するワイズ(本社・東京都港区)は5年前、脳卒中に特化した機能回復訓練施設を開いた業界の先駆けだ。現在首都圏を中心に15店舗、今年度中に30店舗に増やす計画がある。今年3月末で介護認定者の外来リハビリが廃止された影響で、大幅な需要増も見込まれている。

 理学療法士とのマンツーマンが特色。「ひとりひとりの障害の状態と目標は実にさまざまですから、デイサービスなどでのグループリハビリでは成果が出にくい。個別に集中的に訓練していただくことで、結果にコミットできる」と早見泰弘CEO(46)。

 すし職人ならば「再び握りたい」など、多くの利用者が復職を希望している。脳梗塞の末に昨年亡くなった歌手の西城秀樹さんも、訃報の数カ月前まで同社店舗で歌唱の発声リハビリに励んでいたという。

 今年2月に医療認可が下りたVRリハビリ用機器「mediVRカグラ」のオプション料金は1回30分5千円だ。

 本社併設の赤坂店を訪ねると、ヘッドマウントディスプレイで目を覆った男性の腕が右に左に繰り出されている。次々と標的にヒットする画面がゲームのようだが、視覚情報と身体操作を一致させ、体幹を鍛える訓練なのだそう。

 利用者の佐野純平さん(24)は、「楽しいし、使えるものは何でもやってみたい」と意欲的。正しい歩行を脳に再学習させるというリハビリロボット「リゲイト」を足に着けて、120メートルの歩行訓練にも取り組んでいた。

 1年前の真夜中。友人との飲み会後に自宅で就寝中、脳梗塞に見舞われた。「突然体がビーンと固まり動かなくなった」。這(は)って両親に伝え、自家用車で救急病院に向かったが「問題なし」として帰され、夜が明けて容体が急変した。

 今年1月から週3回、静岡県熱海市の自宅から電動車椅子で1人新幹線に乗り、自費リハビリに通う。「中学高校も、熱海から東京の私立に通っていたので慣れています。人によってだと思うけど、このリハビリは自分には合っている。苦にならない」

 発症時は専門学校で針きゅうを学んでいたが、両手・両足のマヒにより断念。それでも今は、父親が経営する会社のパソコン作業を手伝えるまでになっている。「頭はしっかりしてるんで、よかったなぁ」。笑顔も取り戻した。

 4年前、38歳でくも膜下出血を発症し、左半身マヒが残った深谷隆善さん(42)は、現在も自費リハビリを続けながら、障害者ビリヤードの普及活動に力を入れている。キューを支える片手の代わりになる補助具を独自に開発。「アクセシビリティ ビリヤード クラブ」を立ち上げ、毎月第3日曜に千葉市内に集まってプレーを楽しんでいる。

 「もともとアクティブな性格だったのに、発症後は家でふさぎ込むようになってしまった。抜け出せたのはビリヤードのおかげ。機能回復にも役立っている。将来的にはパラスポーツ化を目指したい」と深谷さん。在宅勤務が認められ、会社復帰も果たした。

 今後もリハビリを求める患者の増加が見込まれており、大手資本も参入している。

 豊田通商グループの介護ヘルスケア事業会社は昨年2月、自費リハビリ施設「AViC(エービック)」を東京の尾山台に開店。今年は日本橋店に続き、夏には横浜市と千葉県船橋市にも新店がオープンする。豊田通商広報室は「東京近郊の方々の『通いやすい場所に作ってほしい』との要望に応えた。今年度中に7店舗までの拡大を予定しています」。

 多くの有名人も罹患(りかん)している脳卒中は、いつ誰が襲われるかわからない。リハビリ難民はひとごとでなし、それにつけても金の欲しさよ…。これがリアルな現実だ。

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