高齢者に多い「せん妄」だが… 誰でも発症の可能性あり!

【手術や入院時に覚えておきたい「せん妄」のリスク】

 男性の乳腺外科医が、手術直後の女性患者にわいせつな行為をしたとして、準強制わいせつ罪に問われた裁判を覚えているだろうか。地裁では無罪判決が出たが、検察はその後、控訴している。

 多くの医療関係者は、この事件は「せん妄(もう)」の症状の1つである幻覚が原因だろうと推測する。患者が病院で、あるいは退院後に、幻覚を含めた、せん妄の症状を呈することは珍しくないからだ。

 せん妄による幻覚は、本人にとっては現実、事実であることが疑う余地のないほど鮮明な記憶だ。ウソをついているわけでも、周囲を困らせようとしているわけでもない。

 今回の事件も含め、せん妄について、医療側と患者側双方に理解があると、避けられる状況や防げることは多い。せん妄について最新事情をお伝えしたい。

 せん妄は、注意・意識障害や、認知機能・知覚の異常が症状として現れる。具体的には、急に落ち着きがなくなって興奮したり、暴れたり、夜間にうろうろしたりする「過活動型せん妄」や、逆に、意識がもうろうとしてボーッとしたり、話をしなくなったり無気力になったりする「低活動型せん妄」がある。また、それらの混合型もある。

 家族が誰だかわからなくなったり、幻を見たり、つじつまの合わないことを言ったりして、周囲の人をびっくりさせることがある。

 せん妄を発症するのは高齢者が多いが、年齢にかかわらず手術後や入院後に症状が現れやすい。有病率は、入院患者の10~30%、高齢者は10~40%、入院しているがん患者では25%、手術によるが術後の患者では40~50%、末期患者の約80%に発症するとされている。

 家族、とくに高齢家族の手術や入院を経験した人であれば、せん妄を見聞きしていることは少なくないはずだ。自分が経験した人もいるだろう。病院でも、入院や手術の前に、せん妄のリスクについて説明をしているはずだ。しかし手術への心配で頭がいっぱいになったり、看護師がごく簡単な説明ですませてしまったりすることで、せん妄に思いが至らない人は多い。まずは、せん妄は手術や入院で誰でもなりうるものだ、ということを覚えておいてほしい。

 次に気になるのは、予防法や治療法。高齢者がせん妄を発症すると、症状が認知症に似ていることから、家族は「このままもとに戻らずに、認知症になったらどうしよう」と考えることが多い。

 せん妄ガイドラインの策定委員を務める、日本医科大学武蔵小杉病院精神科の岸泰宏教授によると、一昔前までは、せん妄は一過性、可逆性の症状で、元に戻るものだと考えられてきた。しかし現在では、「戻る人もいますが、戻らない人が非常に多い」と話す。

 せん妄と認知症は違う病態で、次のような違いがある。

 「せん妄は急に発症しますが、認知症はゆるやかに進行します。また、せん妄は意識が障害されますが、認知症は記憶が障害される、という違いがあります」

 たとえば、「今日は何月何日?」という質問に対して、同じように分からないと答えたとしても、前者は質問内容そのものを理解できないか、できていても反応できないほど意識が低下している。対して後者は、実際に日時を忘れている。

 せん妄と認知症は相互に関係して、病態を悪化させることも分かっている。次回は、せん妄と認知症について。(石井悦子)

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ