トンチンカンな「死にたいなら1人で」論 負の連鎖~どうなる「引きこもり」と家族

 川崎の20人殺傷事件では、さまざまな報道があった。20代の頃、岩崎隆一容疑者(51)とアルバイト先で一緒にやっていた人のインタビューによると「比較的明るい性格であった」というが、なぜ最悪の事態を招いてしまったのだろうか。

 岩崎容疑者は長らく「引きこもり」で、一緒に同居していた伯父夫婦が川崎市の精神保健福祉センターに10回以上に及ぶ相談をしていたという。だが、結果的には全く効果がないばかりか、暴走を止められなかった。

 中学時代の担任教師は、「落ち着きのない子で、影が薄く目立たないタイプ。中学3年時に学校内で自殺未遂騒動を起こしていた」と証言している。

 こうしたことを川崎市の精神保健福祉センターは把握していたのだろうか。もし知っていたとすれば、対応はお粗末と言わざるをえない。

 自殺未遂を以前にしている人は、後に繰り返し自殺未遂を起こす可能性が十分に考えられるからだ。まして学校内で自殺未遂を起こしている、というのだから、今回の事件につながる“予行演習”を中学時代にしていた可能性もある。

 一方、児童が被害にあったカリタス小学校の出身者が、岩崎容疑者の身内(従兄弟)にいたことが分かっている。

 岩崎容疑者は、両親が離婚し、伯父夫妻に預けられ、地元の公立中学を卒業している。カリタス学園に対して妬(ねた)みや卑屈な感情が存在していたと考えられる。

 これは常人には理解しがたいが、近所の人へあいさつをしないなど(犯行当日だけ、あいさつしている)、日頃の行動からは「被害妄想」が強く、攻撃性を増して危険な状態だったのだろう。

 直接、診察していないので、断定はできないが、統合失調症を発症していた可能性も十分に考えられる。

 そのため、社会適応ができなくなり「引きこもり状態」となった可能性がある。統合失調症の引きこもりには、「外界が怖くて、どうしようもなく、家からなかなか出られない」というケースもある。

 ただ、誤解しないでいただきたいのは、引きこもりや統合失調症の人がみな攻撃性を持ち、包丁を振り回して殺人事件起こすわけではない。

 事件後、ワイドショーのコメンテーターが、岩崎容疑者が自殺のために、児童らを巻き添えにしたことについて、「死にたいなら1人で死んでくれよ」と発言して、ネットなどで大炎上した。

 精神科医の私に言わせれば、これはトンチンカンな意見である。

 引きこもっている人は、卑屈になったり、現実を検討する力がなくなったりしてしまっている。被害妄想に陥っていることもある。そうした人が、コメンテーターの発言を聞いたら、どうだろう。

 テレビで発言している人は「成功者」であり、「われわれはしょせん、この世の末端」という感覚。気の弱い引きこもりなら、テレビの前でコメンテーターに、「お前達にオレの気持ちなんか分かるものか」とつぶやく程度だろう。だが、中には、殴ってやろうと考える人がいても不思議ではない。テレビでの発言には慎重さが必要で、われわれも、それに躍らされない心構えが大切だ。=おわり

 ■吉竹弘行(よしたけ・ひろゆき) 1978年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)に入学するも医学部6年生で中退。以後、「引きこもり、ときどきフリーター」となり、建設作業員、コンビニ店員などさまざまなアルバイトを経験。94年、同大に再入学し、翌年卒業。医師国家試験に合格し、39歳で医者になる。著書に、「『うつ』と平常の境目」(青春新書)など。明陵クリニック院長。

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