“新薬ブーム” 副作用を起こす危険性も「使い方の見直しが必要」

 【高額薬再び 大きなリスクか 小さなリスクか】(中)

 ■「使い方の見直しが必要」

 インフルエンザが日本列島を席巻したこの冬、ちょっとした“新薬ブーム”が起きた。

 「ゾフルーザください」

 ワイドショーなどで、1回飲むだけの手軽な抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」の登場が報じられ、診療所や保険薬局で求める人が相次いだのだ。発売元の塩野義製薬(大阪市)は品不足の対応に追われた。

 ゾフルーザが売れに売れるなか、当初から処方を見合わせた病院もある。「効果と副作用のバランスを考えると、投与を控える時期だと考えた」。亀田総合病院(千葉県鴨川市)の細川直登感染症科部長は言う。

 公表されている論文などでは、ゾフルーザの効果は既存の抗インフルエンザ薬とほぼ同等。ただ、効く仕組みが異なるため、既存薬が効かないときに切り札となる可能性がある。

 注意しなければならないのは、新しい薬は未知の副作用を起こす危険性もあることだ。新薬に飛びつく傾向に、細川部長は苦言をもらす。「がんや白血病のような命に関わる疾患なら、副作用のリスクを取っても新薬を使う利点がある。だがインフルエンザの場合、健康な成人は薬を使わなくても治る。既存薬があるのに、あえて新薬のリスクを取りに行く必然性がない」

 昭和大学病院(東京都品川区)もこの冬、ゾフルーザ処方を見送った。佐々木忠徳(ただのり)薬剤部長は「薬が効かなくなる耐性ウイルスの発生率が高いことは分かっていた。薬は適切な使い方をして長い寿命を持たせるべきで、それしか効かない患者に使い、薬を育てることが必要だ」と指摘する。

 処方見合わせで2人が共に気にかけたのがコストだ。

 この冬は抗インフルエンザ薬に後発品(ジェネリック)も登場した。ゾフルーザとの価格差は医療費ベースで1人3千円。仮に今冬、インフルエンザで受診した患者約1200万人が全員、新薬を使ったら約360億円が余分にかかる計算だ。高額だと話題の「キムリア」の市場規模とされる100億~200億円より“高く”つきかねない。

 細川部長は言う。「インフルエンザは桁違いに患者数が多いから医療財政への影響も大きい。日本の医療では、コストは無視されてきたが、がんも交通事故もインフルエンザも同じ公的医療保険でカバーするのだから、薬の使い方を真剣に考えないといけない」

 日本で売れる医療用医薬品のラインアップが、世界と比べて異質だとの指摘もある。「肩こりの貼り薬みたいな薬が売り上げの上位に来る国は珍しい」とぼやく声ももれる。

 医薬のコンサルティングなどを行うIQVIA(アイキューヴィア)(東京都港区)によると、2017年に日本で売れた医療用医薬品のトップは抗がん剤のアバスチン。2位は、胃酸の分泌を抑え胃潰瘍などに効くネキシウム。9位に鎮痛消炎の貼付剤モーラスが入る。

 アバスチンは、同年の世界の売上高でも14位に入るが、ネキシウムもモーラスも20位までには登場しない。日本病院薬剤師会の土屋文人元副会長は「貼り薬がトップ10に入る国は日本くらいではないか。胃酸の分泌を抑える薬も世界ではドラッグストアで買える。日本の医療費がかさむのもうなずける」と話す。

 世界の売上高の1位と2位は、関節リウマチや糖尿病のいずれも自己注射薬だ。土屋元副会長は「世界の上位には注射薬など“攻め”の治療薬が多い。日本の状況は、誰でも気軽に医療にかかれる国民皆保険の副産物。持続可能性を考えれば、薬の使い方は見直しが必要ではないか」とする。

 がん研有明病院(東京都江東区)の山口俊晴・名誉院長は公的医療保険を自動車保険になぞらえる。「車のかすり傷までカバーしてもらえば保険料は高くなる。かすり傷に保険金は出なくても、万が一、人をはねて何千万と請求されたときに頼れるのが本来の保険。抗がん剤のように命に関わる薬や重い疾患に確実に効果が出る薬こそ高額でも保険でカバーすべきだ」

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