真剣勝負彩る「美しすぎる将棋駒」 人気駒師がパリで初個展

 将棋人気が続く中、棋士の真剣勝負を彩る駒にも注目が集まっている。作り手(駒師)の個性に加えて木地の素材や書体などの組み合わせは多様で奥が深く、美術品として手元に置く収集家も多い。日本の伝統工芸を世界に発信しようと、その作品が「美しすぎる駒」ともいわれる人気駒師が17日から初の海外個展を仏・パリで開催する。(木ノ下めぐみ)

 個展を開くのは山形市に工房を構える駒師、児玉龍兒(りゅうじ)さん(59)。最も歴史があるタイトル戦「名人戦」で使われる日本将棋連盟所有の「名人駒」のうち、西日本での対局の際に使用されるのは児玉さんの手によるものだ。

 国内で定期的に個展が開かれるほど根強いファンが多く、4月に名古屋市であった個展でも愛好家らが児玉さんの駒に見入った。トラのしま模様や羽を開いたクジャクを思わせる模様が広がる五角形の駒に、漆で盛り上げた「玉将」や「飛車」などの華やかな文字が踊る。漆を幾重にも薄く塗って駒全体に光沢をつける「拭き漆」や、角に丸みをつける「面取り」を強調するなど、従来の制作過程になかった手法を確立したことも駒の芸術性を高めた。

 「使う側にとっても心地良い駒。書体に躍動感があり、長時間の対局でも見やすく疲れない。ドラマティックなタイトル戦を彩る重要な存在です」。「王位」のタイトル獲得経験があり、児玉さんの駒を使ったことがある実力者の深浦康市九段(47)はそう話す。

 地方で行われるタイトル戦では地元の愛好家が所有する駒が複数提供され、その中から対局者が使う駒を選ぶことも多く、深浦さんによると近年は児玉さんの駒をよく見かけるという。16日朝から福岡県飯塚市で始まった名人戦第4局でも地元の愛好家から提供された児玉さんの駒が使われている。今回の海外個展について深浦さんは「文化への理解が深いパリで、個展を通して将棋に興味を持つ人が増えてほしい。意義深い試みだ」と期待を寄せる。

 夭折した天才棋士の生涯を描いたベストセラー『聖(さとし)の青春』などで知られる作家で駒の収集家でもある大崎善生さんも「当代随一の駒師。使うのがもったいなくなるほどに美しすぎる駒です」と惚れ込んでいる。

 近年、最年少棋士の藤井聡太七段(16)の活躍などで将棋界への注目度は上昇。競技人口も増えており、それに伴って駒の出荷額も増えている。

 木製の本格的な将棋駒の出荷額のうち95%を占めるのが山形県天童市。だが、同県将棋駒協同組合によると、昭和後期には約60人いた組合員も現在は32人と半減し、高齢化も進む。「歯止めをかけたい」と組合は若い担い手の育成事業に力を入れ、5年計画で基本工程を指導。少しずつ若手の駒師が増えているという。

 将棋の駒には漆の使い方などによって複数の種類があり、文字を漆で盛り上げた「盛(もり)上(あげ)駒(ごま)」が最高級仕様。価格は木地の素材などによっても異なり、高級品は1点50万円を下らない。児玉さんの駒は国産の最高級のツゲを使い、250万円の値がついたこともあるが、複数組を所有する熱烈な愛好家も少なくない。

 パリでの個展開催には、将棋人気が海外にも広がっている状況などが背景にある。平成29年にはポーランド出身のカロリーナ・ステチェンスカさんが外国人初の女流プロ棋士に。昨年10月には米国で初めて棋戦が開催され、米国やカナダなどから80人以上の外国人が参加した。

 また、山形県を訪れる外国人観光客の間でも駒を工芸品の土産物として買い求めるケースが増えており、関係者は「海外からの熱い視線を感じる」という。

 パリでの個展について児玉さんは「将棋を知らない人や駒を初めて見るという人は海外にまだまだ多い。知っている人にとっても、単なる勝負の道具という駒のイメージを覆す個展にしたい」と話している。

 個展「児玉龍兒と盤上の戦士たち」は17~22日、仏ポンピドゥー・センター近くのギャラリー「メタノイア」で開催。展示予定の18組の駒のうち7組はタイトル戦で使用された。

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