天皇陛下の御理髪掛 大場隆吉さん 新時代「期待でいっぱい」

 平成から令和への代替わりを感慨深く見つめた1人の男性がいる。平成19年から10年間にわたり、天皇陛下と上皇さまの調髪を担当する「御理髪掛(ごりはつがかり)」を務めた大場隆吉さん(67)だ。「感謝と期待がこみ上げてきます」。陛下、上皇さまと身近に接したかけがえのない記憶を胸に、新しい時代を迎えた。

 「一言で言えば『達人』でした」。上皇さまと初めて対面したときの印象をこう振り返る。「周囲へさまざまな配慮をし、同時に勇断もされる。鍛錬を重ねた、すばらしいお方だと思いました」

 皇居の門をくぐると、都心の騒がしさとかけ離れた、しんとした空気が漂っていた。御所の専用室で上皇さまと2人きりになる。静寂の中、息づかいまで聞こえるようだった。ご公務は多忙で、時間が押せば迷惑をかける。「少しの失敗も許されない中で緊張の連続だった」と振り返る。

 大場さんは親子3代の御理髪掛だ。西洋式理髪の草分けとして知られる祖父、秀吉さんは大正10年に皇太子時代の昭和天皇の掛となり即位後も担当。民間人では初だった。父の栄一さんも昭和16年から18年にかけて、昭和天皇の掛を務めた。

 「私たちは玉体(ぎょくたい、天皇のお体)に刃物をあてる。間違いがあれば、切腹する覚悟で御用に臨んだ」。大場さんは、幼少からこう聞かされて育った。いざ同じ立場になると、御用の重責が身にしみた。「自分なりに、覚悟を固めよう」と、祖父と同じように御用の前には真冬でも水をかぶり身を清めた。先祖の墓参りをし、お経をあげた。

 理髪の最中も上皇さまは資料や書籍に目を通し、休まれることはなかった。「ご自分に多くの責を課されているようだった」という。お気遣いにも胸を打たれた。理髪が終わるといつも、背筋を伸ばして直立し「どうもありがとう」とほほえまれた。大場さんは「至らない点があったはずだが、一言もおっしゃらない。職業を尊敬し重んじてくださった」と感謝する。

 同時期には、皇太子だった陛下の理髪も務めた。「世の中の色々な話題に関心を向け、深い知識をお持ちだった。周囲を尊重し、和ませる、ふくよかな人柄でいらした」

 探求心旺盛なお人柄を象徴する出来事もあった。大場さんは40年以上前から、全身の健康につながる頭皮ケアの可能性に着目し、研究と実践を進めてきた。そこに陛下も強い関心を示された。実際に頭皮ケアを受け、シャンプー方法の助言を求め、実践されていたという。

 「陛下は上皇さまと同じく、ご自分に厳しい。社会に深い理解を持ち、国民に近くあられる。どのようなお姿を示されていくのか、期待でいっぱいです」。理髪をするだけではなく、陛下と上皇さまに真心を込めて触れることで、くつろいでいただきたいと心がけてきた大場さん。「心と体を安らげる時間を、少しでも持たれることを願っております」と気遣った。

(中村昌史)

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