迫る中国の産業スパイ 取引先装いSNSで接触か

 営業秘密にあたる技術情報を中国企業に漏洩(ろうえい)したとして、積水化学工業(大阪市北区)の男性元社員(45)が、不正競争防止法違反容疑で書類送検された事件で、中国企業が当初、積水化学と取引のある別の中国企業関係者をSNS上で名乗り、元社員に接触していたことが13日、捜査関係者への取材で分かった。ヘッドハンティングを装って元社員を中国に招き、その後、情報漏洩を要求したという。中国側がSNSを通じて接触を図った今回の事件は、日本の技術情報を狙う中国の脅威を改めてあぶり出した格好で、対策は急務だ。

 ■SNSで接触

 捜査関係者などによると、元社員と中国企業の接点となったのは、世界で6億件を超える登録があるとされるビジネス用のSNS「LinkedIn(リンクトイン)」。利用者は会社名や役職、学歴などを公開し、互いの仕事に役立つ情報を交換している。

 元社員も自身の仕事内容などを明らかにしており、そこに接触してきたのが中国の通信機器部品メーカー「潮州三環グループ」の社員だった。

 だが当初は、積水化学の取引先で、中国にある別の電気製品関連会社の関係者を装い、この別会社で働いてほしいと持ちかけて元社員を中国に招待。その後、潮社社員であることを明かし、情報交換の名目で積水化学の技術情報を送るよう求めたという。

 元社員も「潮社側から何か情報を引き出せないか」などと考えて、スマートフォンのタッチパネルなどに使われる電子材料「導電性微粒子」の製造工程に関する積水化学の技術情報をメールで送信したとされる。しかし、潮社側からの情報はなく、結局、犯行が発覚し解雇された。

 ■法改正し厳罰化

 企業の営業秘密が中国や韓国側に相次いで流出し、日本は「産業スパイ天国」とも揶揄(やゆ)されてきた。

 鉄鋼メーカー「ポスコ」や半導体製造会社「SKハイニックス」といった韓国企業への情報漏洩などを受け、国は対策を強化。平成27年に不正競争防止法を改正し、国外で使用する目的で営業秘密を取得したり、漏洩したりした場合は、国内に比べて重い罰則を科せるようになった。

 また同年から、産業スパイの手口や対策を国と民間企業が情報交換する「営業秘密官民フォーラム」を定期的に開催。経済産業省は営業秘密を守るためのハンドブックを公開し、パソコンから印刷や記録媒体への書き込みができないようにしたり、社員と秘密保持契約を結んだりするなどの対策を促している。

 ■手段は多様化

 法改正により厳罰化されたものの、死刑や無期懲役もあり得る諸外国のスパイに対する罪と比べて抑止力が弱い、との指摘もある。最先端技術をめぐる国際競争が激しさを増す中、さらなる対策は必須だ。

 従来、他国が日本企業の秘密情報を得る際の手段は、社員らの身上を調べたうえで接待を繰り返したり、多額の謝礼を払ったりして協力者に仕立てるほか、サイバー攻撃で直接抜き取る手段が多かった。

 ただ、SNSをきっかけに日本企業社員に接触を図った今回の事件は、他国の情報収集の網が身近に迫っていることを表している。

 特に、中国は2017年に国家の情報活動への協力を義務付ける「国家情報法」を施行。刊行物や学術論文といった公開情報も幅広く収集し、国際会議などの場で人脈を広げながら、外国の技術を国内に取り込む機会をうかがっているとされる。

 警察関係者は「日本企業の技術を狙う手段は多様化している。一人一人が危機意識を高め、現実に即した対応を迅速に取らなければ、貴重な日本の財産が流出し続けることになる」と警戒感を示している。

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