ゴーン事件、「主役」欠いたケリー被告公判 検察は有罪獲得に自信

 金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪に問われた日産自動車元代表取締役、グレゴリー・ケリー被告(63)と法人としての日産の公判が15日、東京地裁で始まる。ケリー被告は産経新聞の単独インタビューに対し無罪を主張、検察側と全面対決する姿勢を示した。金商法違反と会社法違反(特別背任)の罪で起訴されている前会長のカルロス・ゴーン被告(66)が昨年末、レバノンに逃亡しており、“主役”不在で審理される異例の公判の行方が注目される。(山本浩輔、宮野佳幸、吉原実)

■司法取引で供述・資料入手

 ゴーン被告が将来受け取る役員報酬を有価証券報告書に記載しなかった-。検察側は、ケリー被告らがゴーン被告の高額報酬を隠すため、共謀して有価証券報告書に過少記載したとの構図を描く。ケリー被告は「ゴーン被告との共謀はない」などと無罪を訴えるが、検察幹部は「ケリー被告がゴーン被告の手先となって実行した」と有罪獲得に自信を見せる。

 起訴状などによると、ケリー被告はゴーン被告と共謀し、平成22~29年度のゴーン被告の役員報酬が、退任後の受け取り分(未払い報酬)も含め計約170億円だったのに、約91億円少なく記した報告書を提出したとされる。

 検察側の主張などによると、ケリー被告や司法取引(協議・合意制度)に応じた元秘書室長は、21年度分の役員報酬から開示が義務付けられたため、ゴーン被告の指示で報酬をいかに開示しないで受け取るかを検討したという。

 関係者によると、ゴーン被告は22年3月、すでに支払われていた21年度分の報酬約16億円のうち約7億円を高額との批判を恐れて返還。未払い分の受領も延期し、同年度の有価証券報告書に8億9100万円と過少記載した。

 返還した報酬を開示せずゴーン被告に再び支払うため、ケリー被告はゴーン被告の意向を受け、日産とルノーの統括会社(オランダ)から支払えるかの調査を元秘書室長に指示。執行役員には支払い用に非連結子会社(同)の設立を指示するなどしたという。検察側はこの2人と司法取引し、起訴しない見返りに供述や資料を入手した。

 ゴーン被告は22年度以降の未払い分の報酬は別会社を使わず、退任後に受け取ることで話を進めた。名目は顧問料や競合他社へ行かないといった内容だった。退任後の報酬に関する契約書なども複数作られ、一部にはゴーン被告の署名もあったとされる。

■「投資家の判断に影響するか」立件に疑問視も

 ケリー被告側は、報酬は「実際に減額されたと思っていた」とし、退任後の顧問料などは有価証券報告書に記載すべき「確定した報酬」ではないと主張するが、検察幹部は「ケリー被告らがあらゆる方法を画策して決めた支払いが『確定していなかった』という主張は通らない。予算もつけられていた」と強調する。

 公判では、検察側が立証の柱とする司法取引による元秘書室長らの証言に信用性があるかが争点になるとみられる。

 一方、有価証券報告書への役員報酬の過少記載は金商法違反として過去に立件例がない。役員報酬が刑事処罰の対象となる「重要な事項の虚偽記載」に当たるのかどうか、目立った実害のない「形式犯」で処罰価値はあるのか、といった議論もある。

 ある検察OBは「金商法は投資家保護の法律。赤字を黒字にしたら投資家を欺く重要な虚偽記載となるが、ゴーン被告の報酬が10億だろうが20億だろうが、投資家の判断に影響するだろうか」と立件そのものに疑問を示す。

 これに対し、検察幹部は「91億円という金額を意図的に隠す行為はまさに投資家を欺いている」と主張する。

■無実訴えるゴーン被告、公判は見通し立たず

 レバノンへ逃亡したゴーン被告は、メディアの取材に何度も無実を訴え、スキーで雪焼けした顔を披露するなど自由の身を満喫している。日本側は外務省や法務省を中心にゴーン被告の身柄引き渡しに向けた調整を進めているが、レバノン政府の協力が不可欠で、先行きは不透明なままだ。

 「(日本は)有罪率が99・4%に達する国だ」

 逃亡から間もない1月8日、レバノンの首都ベイルートで記者会見したゴーン被告は、事件の核心に迫る証言を避ける一方で、日本の高い有罪率を根拠に、真っ当な司法判断が下されず、無実でも有罪になるかのような持論を展開した。日本では、有罪判決が得られる確信がある場合でなければ検察が起訴しないため有罪率が高くなるが、ゴーン被告は国際世論を味方につける狙いがあるのか、日本の司法制度を一方的に批判する発信を続けている。

 逃亡から半年を経ても身柄引き渡しに進展がない背景には、外国の法執行に自国民を委ねないという国際法上の慣習がある。ゴーン被告はレバノン国籍を有し、同国と日本との間には「犯罪人引き渡し条約」も締結されていない。

 ゴーン被告が会長だった仏自動車大手ルノーの告発で捜査に着手した仏司法当局も同様の状況だ。旧宗主国でありながら、事情聴取のため出頭を求めてもゴーン被告は応じていない。

 ただ、レバノンでは政情不安が続いている。3月の債務不履行(デフォルト)宣言や新型コロナウイルスの感染拡大に加え、8月には大規模爆発が発生。ディアブ首相が内閣の総辞職を表明、辞任した。中東の政治経済に詳しい国際開発センターの畑中美樹研究顧問は「混乱は続いているが、レバノン政府がゴーン被告を手放すとは考えにくい。ゴーン被告も周囲に『(日本や仏への引き渡しはなく)大丈夫だ』と話しているようだ」と説明する。

 ゴーン被告の公判は事実上困難で、主役を欠いたケリー被告の公判で事件の真相は解明されるだろうか。

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