学校現場に豪雨の爪痕 心の傷、学習遅れ…専門家「長期的なケアを」

 九州を広範囲に襲った豪雨災害は、子供たちの学びの場にも影響を与えている。熊本県内では校舎が浸水した球磨(くま)村の小中学校などで休校が続いているほか、すでに再開した学校でも避難所から通学する子供は多い。新型コロナウイルスに続く休校で学習の遅れのほか、自宅が濁流にのまれるなど、被災した子供の心理的負担も懸念されており、専門家は「心の傷は見えにくい。長期的なケアが必須」と指摘している。(中井芳野)

 「いつもの学校じゃないから、行きたくない」。通学路が土砂で埋まった熊本県八代市立八竜(はちりゅう)小が15日から、市内の公共施設を借りて行った臨時授業。小学1年の男子児童が入り口でぐずる姿に、同校長の渡辺泰生(やすお)さん(52)は4年前の熊本地震が重なった。

 当時、渡辺さんは熊本市西区の小学校で教頭をしており、子供たちが度重なる余震で深い心の傷を負っていると感じた。肩をたたいた際の小さな揺れにも過敏に反応したり、当時の被害状況がテレビで映し出されると泣き出したりする児童もいたからだ。

 今回の豪雨災害では、八竜小の児童62人のうち、16日時点で約40人が自宅の浸水などで避難所や親戚の家に身を寄せている。中には、自宅が濁流にのみ込まれて損壊した家庭や、道路が土砂で寸断し、親が車で片道約2時間かけ迂回して臨時授業の場まで送り迎えしているケースも。渡辺さんは「いまは大丈夫そうに見えても、ストレスが蓄積し数カ月後に症状が出ることもある」と懸念する。

 熊本県教育委員会によると、今月6日時点では、県内の小中学校や高校など約260校が休校していたが、その後大半が授業を再開。しかし、特別養護老人ホームの入所者を含む24人が亡くなった球磨村で校舎の1階が水没して机や教材が泥まみれになるなどし、17日時点で県内の8校は休校が続いている。

 新型コロナによる休校が6月に明け、学校現場では授業が本格化したばかりだった。再びの休校を受けて県教委は子供たちに勉強を教える学習ボランティアの派遣を始めたが、学習の遅れへの不安はぬぐえない。

 「受験に間に合うか不安だ」。自宅が浸水し、親戚の家に避難している八代市立坂本中3年の福山寛朋さん(15)は不安をにじませる。使い込んでいた参考書や教科書は水に漬かり、自宅に比べると集中して勉強できない状況が続いている。県教委の担当者は「新型コロナと豪雨のダブルパンチで休校が長引いており、授業時間の確保が難しい」と話す。

 一方、被災した心の傷や今後の学習の不安などで苦しむ子供たちをケアする取り組みも始まっている。

 県教委は被害の大きかった地域の各校にスクールカウンセラーを派遣。「(子供が)水の音を怖がるようになった」と相談する保護者もいるといい、学校側による子供たちへの聞き取りを参考に、慎重にカウンセリングなどを行っている。被災直後の子供たちは繊細になっていることから、カウンセラーは教員に「家の状況は話題にせずに、『眠れている?』などと子供の体調を聞くように」などと子供たちと接する際の助言をしているという。

 兵庫県立大大学院の冨永良喜教授は「子供の様子が落ち着いてみえても、災害の恐怖をため込んでいることが多い」と指摘。心のケアを怠ると心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する恐れがあり、「教員が子供の変化をよく観察しつつ、あえて災害時に感じた不安をノートに書き出させるなど、『どんなときに災害を思い出し、ストレスを感じるのか』を子供たちに客観視させることも必要だろう」と話している。

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