台風19号の深すぎる爪痕 タワマンは“機能停止”川崎市武蔵小杉の住民悲鳴 浸水した二子玉川、過去には「堤防反対運動」も

 列島を縦断し、各地で甚大な被害をもたらした台風19号は、多摩川沿いにある首都圏で「住みたい街」として知られる人気の住宅街にも大きな被害をもたらした。一方、一時、工事が停止していた群馬県の八ッ場ダムや、「地下神殿」と呼ばれる埼玉県春日部市の放水路が治水効果を発揮した面もあると専門家は指摘する。

 JRや東急線が通る川崎市中原区の武蔵小杉駅。タワーマンションが建ち並び、住民が急増している街だ。12日の台風直撃の際に南武線の同駅から隣駅の向河原(むかいがわら)駅近くまでの一帯が冠水。14日時点でも道路や遊歩道はぬかるみ、若い女性も「チョー汚い」と叫びながら歩いていた。

 47階建てのタワーマンションの一棟では停電と断水が発生し、住民らがトランクなどを抱え、避難する姿もみられた。

 34階に住む息子家族の様子を見に来たという初老の女性は「エレベーターが止まり、階段で上がろうとしたが途中で断念した。管理組合はスポーツクラブなどの風呂を利用できるように手配している。孫を自分の家から学校に通わせる」と心配そうに話した。

 向河原駅前の商店街では清掃作業に追われていた。住民の女性(76)は「夜中に雨がやんだ後、線路の方から通りに渦を巻きながら水が流れこんできて川のようになった。屋内にも突如バーッと水が入り込んできて、商店街のほとんどの店が店内で浸水した。ホームエレベーターが壊れたので、100万円近くかかるかもしれない」と語った。

 公益財団法人リバーフロント研究所技術参与の土屋信行氏は、「多摩川に通じる下水管から水が逆流した可能性がある。木やごみなども流れてくるなか、逆流を防ぐ逆止弁などの機能を発揮できないほどではなかったのか」と指摘する。

 多摩川の対岸にある東京都世田谷区では、東急電鉄二子玉川駅の高架下で、多摩川と支流が合流する付近から水が流れ込んだ。半地下の医療施設が浸水、休日は行楽客でにぎわう河川敷も被害が深刻だった。玉川一丁目などの住民によると、足のすねあたりまで濁流が押し寄せたという。

 前出の土屋氏が「堤防がない『無堤地区』で発生した。決壊しなかったことは不幸中の幸いだった」と語るように水が流入したのは、人工堤防が切れている兵庫島公園の付近だった。

 近隣住民らによると、周辺は戦前から料亭などが立ち並んでいた。一般住宅が普及し始めて以降、人工堤防が建設されたが、反対運動もあったという。

 反対派だったという多摩川沿いに40年以上暮らす男性(72)は「景観維持の面や、堤防を作る分、水かさが増えると主張していた。人工堤防を作った以上、兵庫島のあたりでなぜ堤防が切れているのか疑問だ。早く作らなかったのが悪いのではないか」と話す。

 同じく多摩川沿いに住む男性(23)は「昔は堤防工事をしている時も近所の人が『反対』と騒いでいるのを見てきた。小さい頃から遊んだ川がなくなるのは嫌だが、今の堤防はあった方がいい」という。

 立命館大学環太平洋文明研究センター教授の高橋学氏は、各地での川の氾濫について「福島県の阿武隈川は本流と支流の合流地点で、堤防が切れている部分があり、水があふれやすくなっていた。また、長野県の千曲川周辺は、標高が高い川の周辺から、水はけが悪い低地に流れ込んで大きく広がった」と解説する。

 一方で高橋氏は民主党政権下で工事が中断し、その後再開。試験貯水中だった群馬県長野原町の八ッ場ダムや、埼玉県春日部市にある全長6・3キロの「首都圏外郭放水路」が治水効果を発揮したとみる。「八ッ場ダムがなければ利根川流域は危なかった。また、首都圏外郭放水路がうまく機能したことで、埼玉県東部や、東京都江戸川区も被害が軽減された」

 今後の対策について前出の土屋氏は「全国の河川で整備が100%に達した川は一本もないということだ。治水対策は完璧にはできないが、早急に堤防強化か山間地域にダムを造るのか対策に取り組まないといけない」と強調した。

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