「あおり運転に厳罰を」 東名死傷事故遺族

 茨城県の常磐自動車道でのあおり運転殴打事件を受け、神奈川県の東名高速道路で2年前、あおり運転をきっかけに一家4人が死傷した事故の遺族が産経新聞の取材に応じ、厳罰化など法整備の必要性を訴えた。現行法にはあおり運転を直接罰する規定はなく、警察当局は道路交通法よりも罰則が重い刑法の積極的な適用を進めている。27日には自民党が罰則強化などを検討する方針で、危険運転の抑止対策に関心が高まっている。

 「あおり運転をなくすには厳しい刑罰が必要」。神奈川県の東名高速でのあおり運転が原因となった事故で、三男夫婦を亡くした萩山文子さん(79)=静岡市=は厳罰化を訴える。

 事故は平成29年6月に発生。乗用車のあおり行為で無理やり停止させられた一家のワゴン車に後方から大型トラックが衝突。萩山さんの三男、嘉久さん=当時(45)=と妻、友香さん=同(39)=が死亡し、娘2人もけがをした。

 裁判では、検察側が乗用車を運転していた被告の男に対し、危険運転致死傷罪を主張。判決はあおり運転と事故との因果関係を認めて懲役18年を言い渡した。一方で、速度ゼロの停車状態を同罪の構成要件である「危険な速度」とする主張は退けた。

 被告側は同法の適用を不服として控訴しており、萩山さんは「危険な行為を十分な罪に問えないのはやりきれない。私は今も息子たちの死を認められないでいる。こんな思いは私だけで十分」と語気を強める。

 警察庁は昨年1月、全国の警察にあおり運転の摘発強化を指示。その結果、昨年の道交法違反(車間距離保持義務違反)での摘発件数は前年の約1・8倍の1万3025件に急増した。今年上半期も6873件に上っている。

 しかし、車間距離保持義務違反の罰則は3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金にとどまる。このため、警察当局はより罰則の重い暴行罪(2年以下の懲役か30万円以下の罰金など)といった刑法の適用を積極的に進めている。常磐道の事件では、数キロにわたる急な減速や車線変更を繰り返すなどの様子が確認されており、茨城県警はあおり運転が暴行容疑に当たるとみて捜査中だ。

 堺市で昨年7月、あおり運転の車に追突されたバイクの男子大学生が死亡した事故では、大阪府警が殺人容疑で逮捕。大阪地裁の判決も同罪の成立を認め、懲役16年を言い渡している。

 この事故では、男の車に設置されていたドライブレコーダーの解析から算出した衝突前後の速度や男の言動が殺意認定の柱となったが、レコーダーに十分な記録が残されていない場合などには刑法の適用による立件のハードルは高まる。捜査関係者は「実況見分や目撃証言などから事故状況の検証は可能だが、あおり行為によって相手に危害を加えようとする意図があったことを立証するのは容易ではない」と指摘する。

 甲南大法科大学院の園田寿(ひさし)教授(刑法)は「危険運転致死傷罪に、死傷事故につながりかねない行為を処罰する暴行の類型にあたる規定を加える法改正を積極的に考えるべきだ。著しい接近や直前の進入などの行為を条文に明確化すれば罪を認定しやすくなる」と主張する。

 これまでも飲酒運転など悪質な運転への対応措置として法改正が繰り返されてきた。あおり行為についても、自民党が27日に警察庁などから取り締まり状況を聞き取った上で罰則の強化などを検討、政府に提言していく方針を示している。

     

 悪質なあおり運転の取り締まり強化の一環として、著しく交通の危険を生じさせる恐れがある運転免許保有者を「危険性帯有(たいゆう)者」として免許停止の行政処分を積極的に行う動きも広がっている。専門家からは牽制(けんせい)効果を高めるため、免許取り消しを可能とする法改正を求める声が上がる。

 道路交通法では、将来的に事故を起こす可能性があると判断される運転者を危険性帯有者と規定。交通違反による点数の累積がなくても最長180日間の免許停止にできるとしている。

 警察庁によると、交通トラブルからあおり運転をした上、傷害や暴行などの事件を起こしたため、危険性帯有者として全国の公安委員会が免許停止とした件数は昨年1年間で計42件に上り、過去最多を記録した。

 同志社大の川本哲郎教授(刑事法)は「運転適性をこれまで以上に慎重に判断し、処分に取り消しを追加すべきだ」と主張する。

 交通違反によって免許取り消しとなった場合、再取得ができない欠格期間は最長で10年だが、川本教授は「海外では終身の欠格期間を設けている国もある。日本でも、救済策を設けた上で、20~30年に長期化し、時間をかけて運転適性の再教育を施していく必要がある」と提言している。

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