108人が犠牲、岡山県で転落事故相次ぐ「恐怖の用水路」の実態

 「農業県」を自称する岡山県で、用水路への転落事故が後を絶たない。死亡事故が相次ぎ全国的に注目されたことを受け、昨年3月、転落事故が発生しやすい場所、効果的な対策工法を示す「ガイドライン」の案を策定。令和2年までの2カ年の追加調査を経て完成させる。あわせて柵や街灯の設置を進めるが「安全安心」は道半ばだ。(織田淳嗣)

 参議院選投開票日の7月21日、またも岡山県で用水路転落事故が発生した。

 同日午前11時5分ごろ、岡山市東区金田の市道で「自転車と男性が用水路に転落している」と110番があった。用水路に倒れていたのは市内に住む無職の男性。搬送当時は意思疎通は困難だったという。現場は柵のない用水路だった。

 転落の原因は分かっていないが、こうした事故は岡山県では頻発している。なぜか。それには歴史的な経緯がある。

 岡山県南部は瀬戸内海に面した平野で、江戸時代は新田開発が進み、稲作地帯が形成された。近代に入ると児島湾の干拓が行われ、さらに水田が拡大。農業用水を供給するため、数多くの用水路が設置された。

 特に岡山市、倉敷市の用水路の密度は全国平均の5倍と高い。全国の用水路の総延長が40万キロなのに対し、岡山市だけでその1%にあたる4千キロ、倉敷市は2千キロを占める。

 柵がない?

 事故も多い。岡山県などの調べでは平成25~28年の4年間に、用水路、側溝、小川、田畑への転落事故での救急出動は1562件。死亡者は108人に上り、8割以上が65歳以上の高齢者だった。事故は岡山市、倉敷市の都市部に集中。死者数は25年、27年でそれぞれ全国のワースト1位となり、特に27年は交通死亡事故における転落死亡事故の割合が13・8%に達し、全国平均の6倍となった。

 事故を招く「岡山の用水路」で特徴的なケースは道路と並行していながら柵がなく、増水すれば地面との境界が不明確になる点だ。

 岡山市内の女子学生(21)は「今更見ても驚かないが、やはり他県から車の人を呼びにくい」と話す。60代の男性は「地元に長年いても、増水した場合に境目が分からないこともある」と明かす。

 別の会社員の女性(35)は「姉が夜道を歩いていたとき、車の男に“ナンパ”をされた。用水路わきで車を寄せられて逃げ場がなく、怖い思いをしたそうだ」と意外な形で、不便を強いられたケースを話した。

 事故予防策を検討

 長年、半ば放置されていた用水路事故だが、25年全国でワースト1位となり、小学生が被害に遭う事故があったことから岡山県では本格的な調査を開始。27年には警察や消防と連携する形での「用水路等転落事故防止対策検討会議」を設置した。

 会議では、25年以前は転落事故について詳細な統計が取られていなかったことが判明。また、用水路の数が多く、柵や照明を広く設置することが費用面で困難なことや、用水路の清掃活動には柵が邪魔になり地元が難色を示す例があるなど、課題も浮き彫りになった。

 県などは昨年3月、用水路の形状、位置どりや地域の事情ごとに、それぞれ適切な予防策を講じていく「用水路等転落事故対策ガイドライン」の策定に着手。原本はすでに作ったが、2年間の事故調書を収集、分析して完成させる考え。あわせて段階的に、簡易柵や、太陽光発電式のLED照明で道と用水路の境目を示す設備の設置など、低コストな予防策も進める。

 21日投開票の参院選。岡山選挙区で当選した石井正弘氏(自民)は、昨年の西日本豪雨を念頭に「やるべきことは、地域社会の安全安心(の確立)」と述べ、防災インフラの整備を進めると強調した。ただ石井氏が知事を務めた4期16年の間、用水路対策が積極的に行われたとは言い難い。水害対策以外の、日常の暮らしに向け「足もと」を固める必要がありそうだ。

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