ゴーン被告、公判も「特別」 対立する日産と異例の一体審理

 日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(65)の勾留や保釈の判断をめぐり対立が表面化した裁判所と検察が、公判の進め方でも溝を深めている。報酬を過少記載したとされる金融商品取引法違反事件で、東京地裁は起訴内容を否認するゴーン被告ら2人と、認める日産の公判を分離しない方針を決定。認否が分かれた場合は分離されるのが通例で、検察側から「また特別扱いか」との声も漏れる。公判長期化も懸念される中、24日には同法違反事件の第1回公判前整理手続きが行われる。

 ●「自虐的な判断」

 ゴーン被告は、前代表取締役のグレゴリー・ケリー被告(62)と共謀し、平成22~29年度のゴーン被告の報酬を有価証券報告書に計約91億円過少に記載したとして金商法違反罪で起訴された。法人としての日産も起訴されている。起訴内容を認める日産に対し、ゴーン、ケリー両被告は全面的に争う方針だ。

 東京地裁(下津健司裁判長)は4月26日の進行協議で、主張が対立するゴーン、ケリー両被告と、日産の3被告の公判を分離せず、一緒に審理することを決めた。関係者によると、下津裁判長は「同じ東京地裁が審理するのに、有罪と無罪が分かれたら社会的にも世界的にもどう受け取られるか」と述べたという。

 この判断について、検察幹部の一人は「裁判官が裁判官の判断を信用していない自虐的な判断」と批判する。東京地検特捜部OBの弁護士は「個人に罪が成立しない場合、会社だけ有罪になるのはおかしい」と理解を示す一方、「これまでは、認めている被告と否認する被告の公判を分離するのが普通」と指摘する。

 最近では、リニア中央新幹線建設工事をめぐるゼネコン大手4社による談合事件で、起訴内容を認める大林組、清水建設の2社と、否認する大成建設、鹿島建設の2社側の公判は、同じ裁判長の下で分離。大林組と清水には初公判からわずか約3カ月で罰金刑の判決が出ている。大成、鹿島両社側は今も公判が続いている。

 ●勾留・保釈で相反

 ゴーン被告側は、特捜部が日産の幹部2人と司法取引し、日産も捜査に協力していたとし、日産を先行して審理する同じ裁判官の下では公正な裁判を受けることができないとして、別の裁判官が審理するよう求めていた。これに対し、日産は公判を通例通り分離し、早期に判決を出してもらうことを求めていた。

 下津裁判長は、これまでの運用通り、別の裁判官の審理を認めなかったが、日産の公判を先行させることも認めなかった。ケリー被告の関係者は「地裁は『日産が自ら罪を認めている、というだけでは有罪にしない』という風に構えている」と評価する。

 ある検察関係者は「民間企業は早期に裁判を終わらせないと、訴訟費用や株価などに甚大な影響が出る。結局、裁判所は罪を認めている日産に毎月、巨額の罰金を科すのと同じことになる」と指摘する。別の検察幹部は「3者一体審理だと公判は間違いなく長期化するが、裁判所が目指す迅速な公判とのバランスはどうやって取るのか」と疑問視する。

 下津裁判長は「司法取引が本格的に争われる初めての事件。(司法取引に合意した人の)証言の信用性をどう判断するかが重要だ」とも述べ、3被告のうち1者でも同意しない調書は証拠採用しない方針も示し、「実質的に否認側の主張通り」(ケリー被告の関係者)となった。

 ゴーン被告をめぐって裁判所と検察は、地裁が特捜部の勾留延長請求を認めなかったり、特捜部が証拠隠滅の恐れが高いとして反対した保釈を許可したりするなど鋭く対立してきた。

 検察関係者は「裁判所は公平性を強調しているが、過去の事例と比べると全く公平ではない」と非難。別の特捜部OBの弁護士は「要は裁判所は検察の言いなりにはならないということだろう」と分析した。

     ◇

 ゴーン被告は、日産自動車の資金を中東の友人側に支出したとされるサウジアラビア・ルートとオマーン・ルートの2つの会社法違反(特別背任)事件でも起訴されている。法人としての日産など計3被告が起訴された金融商品取引法違反事件とは、証拠の内容が異なるため別々に公判が行われるが、いずれも年内の初公判実施は困難な見通しだ。

 特別背任事件については5月23日、東京地裁で初公判の前に裁判官と検察官、弁護人が協議して争点を絞り込む第1回公判前整理手続きが行われ、ゴーン被告本人も出席した。次回期日は、金商法違反事件の第1回公判前整理手続きと同じ6月24日。

 金商法違反事件の初公判について、地裁は当初、9月にも開きたい意向を示していたが、撤回した。

 ゴーン、ケリー両被告側は多くの調書を不同意にする見込みで長期化は必至。ゴーン被告の弁護人を務める弘中惇一郎弁護士は「公判前整理手続きは来春ごろまではかかるだろう。さらに判決は半年かかるとも数年かかるとも分からない」との見方を示している。

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