「横浜の暴力団はコカインも扱う」 ピエール瀧事件で見えた薬物事情

 麻薬取締法違反容疑で逮捕、起訴されたミュージシャンで俳優のピエール瀧被告(52)をめぐる事件が、神奈川県内に波紋を広げている。瀧被告にコカインを譲り渡していたとして、同法違反容疑で知り合いの女が逮捕、起訴されたが、そのやり取りがなされたのが横浜市内だったからだ。捜査関係者によると、同県内ではコカインを暴力団が覚醒剤と並行して密売しているという。実は本紙記者もかつて、違法薬物密売の一端と思われる場面を目にしていた。

 関東信越厚生局麻薬取締部が昨年秋から半年余りにわたる内偵捜査の末、2人の姿を確認したのは3月11日夜のこと。メンバーを務めるテクノバンド「電気グルーヴ」は今年、結成30周年を迎え、俳優としてはNHK大河ドラマ「いだてん」に出演と多忙を極めるなか、この日、瀧被告は仕事を離れて市内のコンビニエンスストアにまで足を延ばしていた。

足がつきにくい

 その駐車場で落ち合ったのが、今月8日に起訴された通訳業の田坂真樹被告(48)だった。ここで瀧被告は現金15万円を支払い、20年来の知り合いだという田坂被告からコカイン約6グラムを譲り受けたとされている。

 捜査関係者によると、コカインは覚醒剤と比べて効き目の持続時間が通常20~30分と短く、費用も高くつくという。こうしたことから、国内での流通量の実態は詳しく解明されてはおらず、神奈川県警によると、同県内で摘発された人数は昨年16人、一昨年はその半分の8人を数えるのみだった。

 その一方で、捜査関係者は「コカインといえば東京都内では不良外国人が取り扱っているケースがほとんどとされるが、同県内では暴力団が覚醒剤とともにコカインを含めた違法薬物を用意し、資金源にしている」とも話す。効果の持続時間が短いため、コカインは陽性反応が出る時間も短いのだという。

 捜査関係者は「覚醒剤が場合によっては使用から1週間たっても尿から成分が検出されるのに対して、コカインは半日で反応が出なくなることもある」と指摘。“足がつきにくい”ともいえ、有名人の瀧被告が好んで使っていたことも、ある意味で説明がつく。

裏サイトで客募り

 田坂被告がどのようにコカインを調達していたのかは、現時点で不明だが、最終的に芸能人がカネに糸目をつけずに買ってくれるのなら、暴力団にとって用意しておかない理由はないということか。瀧被告のような「少数派」も見逃さないほど、暴力団などが「シノギ」として重要視しているとみられる違法薬物。“主力商品”である覚醒剤に目を向ければ、おびただしい数の乱用者がいるとみられ、「それこそコンビニや量販店の駐車場などが取引現場に使われることは、よくある」(捜査関係者)とされる。

 裏サイトで客を募り、電話でやり取りをした後、街中で乱用者と落ち合って“ブツ”を手渡すというのが現在の暴力団が行っている違法薬物密売の流れだとされる。この際、実際に「ブツを手渡す」作業を行う人間を、捜査関係者は「組織のピラミッドのなかで最も下っ端の人間」と評する。「いくらかの手数料を得るだけで使われ、捕まれば懲役が待っている。ある意味最も損な役回り」というのがその理由だ。そうした人物とみられる男の行動を12年前の秋口、当時はまだ新聞社に入社前だった本紙の記者が偶然見かけていた。その場に出くわした記者がこう回想する。

わずか数秒

 「その日の昼過ぎ、都内のある幹線道路から一本裏手に入ったコインパーキングに車を止めたときのことだった。近所に住んでいるらしいサンダルを履いた30代ぐらいの痩せた女性が、財布を手に周囲をうかがうようにしながら、こちらに歩いてくるのが見えた」

 「その挙動不審さが気になったのとほぼ同時に、駐車スペースでエンジンをかけたまま野太い排気音を放っていた改造車の助手席から、ガラの悪い男が出てきた。男は女性を目の前のコンビニと建物の隙間に連れて行き、数枚の紙幣を受け取ると、押しつけるように透明な袋に入った白っぽい物体を手渡した」

 わずか数秒の出来事だったが、素人目にも何が行われていたのかは容易に察しがつき、怖くなって慌てて視線をそらしたという。男は県内の“組織”の人間だったのか、乗っていた国産セダンのナンバープレートには「相模」の2文字が記載されていたというのだ。

 身の破滅を招くばかりか、違法薬物は結果として反社会的勢力である暴力団の資金にも化ける。一般の市民にとって、手を出していいことは何一つないことは確かだろう。

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