【古典の夢を見る】働く女性が共感した六条御息所…「葵上」に昇華した嫉妬心

 嫉妬はときに、人を鬼にする。生き霊にもする。恋愛において、人は自分では制御できない感情を持て余し、怒り、恨み、悲しみがわが身をのみ込んでしまう。

 だが恐ろしい嫉妬心は、ときに芸術や芸能に昇華される。古今東西、嫉妬を描いた作品のなんと多いことか。古典芸能にも女性の嫉妬を描いたものは多いが、なかでも紫式部の「源氏物語」をもとに、能や日本舞踊で作られた「葵上(あおいのうえ)」はその代表ではなかろうか。

 主人公は光源氏の年上の恋人、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)。先の皇太子妃という身分の高い女性。美貌と教養を兼ね備え、若き日の光源氏は彼女に夢中になった。しかし、時は流れ、やがて光源氏は御息所以外の女性にも心を移す。そして、葵上という女性を正妻に迎える。

 すべてにすぐれたプライドの高い女性だけに、そのときの気持ちはどれほどのものであっただろう。彼女は自分でも知らぬうちに生き霊となり、葵上のもとに現れるのである-。

 地唄舞(じうたまい)「葵上」は、同名の能をもとに作られた曲。5月15日、大阪の国立文楽劇場で、京舞井上流の井上葉子さんによって舞われる。

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 「今の恨みはありし報い、瞋恚(しんに)の炎(ほむら)は身を焦がす、思い知らずや思い知れ、恨めしの心や、あら恨めしの心や…」

 瞋恚とは怒りや恨みのこと。地唄舞「葵上」では、この場面で御息所の生き霊が、病床の葵上(舞台にはいない)をじっと見下ろし、扇でびしり、びしりと打ち据える。

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