コロナめぐる偏見や差別を許すな! 「ハンセン病」の過ちを思い返して

桂春蝶の蝶々発止

 厚労省は24日、新型コロナウイルス感染拡大に関連する解雇や雇い止めが、23日時点で6万人を超えたことを明らかにしました。コロナは今後も、何かと問題を引き起こしていくと思われますが、私は見逃してはならない、人間の「ある心理」があったと思います。

 それはコロナ患者や医療従事者らへの不当な差別です。白衣を見ただけで走って逃げていく。その白衣を洗ってくれる業者が見つからない。ある看護師さんは、自分の子供が通う保育園で、他の保護者から「悪いんだけど、看護師を辞めるか、保育園を辞めるか、どっちかにしてくれる?」と言われたといいます。

 患者や関係者に対する差別は決してあってはなりません。この国はもう一度、「ハンセン病」における大きな過ちの経験を持つことを思い返さなくてはいけません。

 当然、コロナとハンセン病は、原因や発病のメカニズム、症状、治療法の有無など、まったく異なることは理解しています。ただ、誤った知識や見解による過度な反応は、ともに偏見を生み、差別へとつながります。

 ハンセン病は1943年、治療薬「プロミン」が開発されて、治癒できる病気になりました。ところが、53年に、強制入所、就学禁止、通告義務、外出禁止、所長の秩序維持規定などが盛り込まれた「らい予防法」が制定されます。国家による差別と人権侵害は、同法が廃止される、96年まで続くのです。

 つまり、43年も放置されたのですよ? これは政治だけではなく、人間の無知・無関心が深く関わっている気がします。

 人間はなぜ、差別や偏見を生むのかというと、「空気を読もうとするから」です。空気は単一のものなので、多様性は認めません。それが「世間」というものに肥大化し、そこへコロナのような恐怖を与えられると、凶暴化して「同調圧力」に変異する。仕上げとして、人命第一などの「正義」という武器を与える。人が最も残虐になるときは、自分の正義を貫こうとするときです。

 こうなると、もはや人間は止まりません。差別であろうが偏見であろうが、どんな罪でも犯すのだと思います。

 フランスの詩人、ヴァレリーは「湖に浮かべたボートを漕ぐように、人は後ろ向きに未来へ進む」と言いました。「後ろ向きに」とは、過去を直視するということです。

 故郷から引き離されたハンセン病患者たちの遺骨は、例えば長島愛生園には3600柱以上も眠っています。今回のコロナ禍で、患者や医療従事者らへの不当な差別が繰り返されました。私はただただ、ハンセン病とそれにまつわる偏見と闘った霊たちに、申し訳なく思えるのです。

 ■桂春蝶(かつら・しゅんちょう) 

 1975年、大阪府生まれ。父、二代目桂春蝶の死をきっかけに、落語家になることを決意。94年、三代目桂春団治に入門。2009年「三代目桂春蝶」襲名。明るく華のある芸風で人気。人情噺(ばなし)の古典から、新作までこなす。14年、大阪市の「咲くやこの花賞」受賞。

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