映画監督・成島出 社会派重鎮がどうしても撮りたかった「腹から笑えるコメディー」 「グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇」

 「厳しい現代社会を反映しているのでしょうか。近年、シリアスな映画ばかり。もっと心から笑える映画があってもいいのでは…」

 役所広司、柄本明主演のコメディー映画「油断大敵」で監督デビュー以来、約17年ぶりにコメディーの新作「グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇」(14日公開)を撮った。

 太宰治の未完の小説「グッド・バイ」(1948年)を、劇作家のケラリーノ・サンドロヴィッチが舞台にした「グッドバイ」(2015年)を原作に映画化した。

 戦後日本が舞台。文芸雑誌の編集長、田島(大泉洋)は青森の疎開先に妻子を残し、東京に愛人を何人も囲っていた。心を入れ替え、妻子を呼び戻そうと考えた彼は、愛人らと手を切るため、闇市で働くキヌ子(小池栄子)に妻の代役を頼む。

 中・高時代、太宰の小説を貪(むさぼ)るように読んだという。

 「太宰作品の映画化は多いが、『人間失格』など人生の闇を描いたシリアスな作品ばかり。光を描いた明るい映画を撮りたかった。腹から笑えるコメディー映画で」

 大学時代に撮った自主製作映画が、映画監督への登竜門「ぴあフィルムフェスティバル」で入選し、長谷川和彦監督に弟子入り。脚本を書き、助監督として修業していたため、監督デビューまで10年を費やした。しかし、この期間は無駄ではなかった。助監督時代に、「君の監督作には必ず出るから」と申し出てくれたのが、「油断大敵」の役所と柄本。2人は約束を忘れていなかったのだ。

 「最近の邦画は深刻な作品ばかり…。などと言いながら、私自身、シリアスな作品ばかり撮っていますね」と苦笑する。

 誘拐事件を描いた「八日目の蝉」、中学生による裁判をテーマにした「ソロモンの偽証」など重厚な社会派映画を得意としてきた。

 17年、「ちょっと今から仕事やめてくる」の公開直後に肺がんが発覚。自ら公表し、約1年間闘病生活を送った。

 ■撮影直前にがん発覚

 「毎年受けている人間ドックの検診で、がんが見つかりました。『グッドバイ』の撮影直前だったんです」と打ち明けた。

 当初は映画撮影を優先し、「手術を先延ばしにしよう」と考えたという。だが、主演の大泉と小池から「監督が復帰するまで待ちますから」と言われ、治療を優先させた。

 「笑うことがいかに大切かが、この映画を撮影し、改めて自覚しました。もし、がんを経験していなかったら、この映画は違った作品になっていたかもしれません」

 大泉演じる田島は、小池演じる“偽女房”のキヌ子を連れ、愛人たちに別れ話を切り出す。「グッドバイ!」。こうきっぱりと言い放つのは自立した愛人たちの方だった。

 「もし、この映画が最後の作品で、私にとって“グッドバイ”となるのなら、悔いのないよう撮りたい。撮影中、こう強く思いました」と語る。

 「ちょっと今から仕事やめてくる」は、ブラック企業で悩み、自殺を図る新入社員の再生を描く物語。当初は脚本家として参加していた。「なぜ途中から監督も引き受けたのか」と、公開直前の取材で理由を聞いたときの答えが強く印象に残っている。

 「助監督時代の同僚が自殺したんです。そのとき、私に余裕があれば彼を引き留めることができたのではなかったか」と、その無念さが蘇り、「私が監督します」と志願したのだった。

 ■次候補は「移民問題」

 次のテーマを聞くと「移民問題です」と即答した。

 「現代日本が抱える問題として、避けて通れない課題ですからね」

 もっとコメディー映画を撮ってほしい…。「グッドバイ」を見るとそう思ってしまうが、社会派映画の重鎮が撮る、とことんシリアスさを追究した映画も捨てがたい。

 「また、コメディー? 分かりました。体調は十分。撮り続けますから」と力強く宣言した。(ペン・波多野康雅/カメラ・柿平博文)

 ■成島出(なるしま・いずる) 1961年4月16日生まれ。58歳。山梨県出身。駒澤大学の映画サークルで自主製作を始め大学を中退。長谷川和彦監督に師事。相米慎二監督の助監督などを務める一方、脚本家として活躍。2003年、「油断大敵」で監督デビュー。「孤高のメス」(10年)、「聯合艦隊司令長官 山本五十六」(11年)、「不思議な岬の物語」(14年)など数々のヒット作を手掛ける。

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