前のめりのトップランナー、新海誠「日本のアニメ監督として、世界のアニメ大作と戦える作品を」

【ぴいぷる】

 いま、その名を聞くだけで世界中のアニメファンが興奮する監督といっても過言ではないだろう。

 興行収入250億円を超え、国内歴代2位の記録を打ち立てた前作「君の名は。」(2016年)から3年。注目の新作「天気の子」が公開中だ。世界140カ国・地域での公開も決まり、その注目度はさらに加速している。

 「当初、『君の名は。』の興収目標は20億円だったんですよ。だから新作も興収は意識していません。ただ、日本のアニメ監督として、世界のアニメ大作と戦える作品を…という高い志を持って作ったつもりです」

 ◆“日本代表”の気概

 こう語るように今年の“映画夏の陣”は例年になく大激戦だった。「アラジン」「トイ・ストーリー4」、そしてディズニー大作「ライオン・キング」。

 「製作費の規模などではディズニー映画などと比べることができないかもしれない。それでもわれわれ日本アニメーターの創作へ懸ける情熱は彼らに負けていないと思う」

 謙虚だが、日本代表のアニメ監督としての強い意地、気概を漂わせる。

 ◆ワンルームから成功

 これまで、夏と言えば、宮崎駿監督率いるスタジオジブリの新作アニメを家族そろって見に行くことが、風物詩として定着していた。だが14年、ジブリは制作部門の休止を発表。夏の風物詩が消えかかっていたところへ、その2年後、救世主のように現れたのが「君の名は。」だった。

 日本興収記録の歴代1位は宮崎アニメ「千と千尋の神隠し」(01年)だ。308億円という大記録に、15年ぶりに迫り、宮崎監督の存在を脅かす若き鬼才として一躍脚光を浴びた。当然、新作へ求められるハードルは上がり続けている。

 「プレッシャーは重い?」と聞くと、「私は監督なので正直、興収などはよく分かりません。ただ、私の作品を見るために1900万人もの人が劇場へ足を運んでくれた。社会的意義、観客に対する責任は強く感じています」と覚悟を語る。

 監督6作目にして興収250億円を超えたが、デビュー作「ほしのこえ」(02年)は、ゲーム会社を退職し、自宅のワンルームマンションで1人でパソコンを使って完成させた短編だった。

 脱サラし、29歳でデビューして17年。まさにアメリカンドリームのような成功を体現した。たった1人でワンルームで創作していたアニメーターが、今や日本アニメ界の中心にいるのだから。

 そのアニメ業界の在り方に話題が及ぶと、「実は『天気の子』の公開1日前に京アニ(京都アニメーション)の放火事件が起こったんです。新作の公開を素直に喜べない複雑な思いでいます」と心情を吐露した。

 この放火事件により、京アニのアニメーター35人が亡くなった。ともにアニメ作りに懸ける夢を語り合い、切磋琢磨してきた仲間が何人も事件に巻き込まれたという。無念の思いとともに、仲間にこう熱く語りかけた。

 ◆京アニ復活を確信

 「私は確信していますよ。遠くない将来、必ず京アニは復活を遂げます。素晴らしい新作を引っ提げて」

 「天気の子」の主人公は離島から東京へやってきた家出少年、帆高。大都会の片隅で、不思議な力を持つ少女、陽菜と出会い、社会の中で葛藤しながら成長していく物語だ。地球の未来を問いかける壮大な世界観、若者の力で世界を変える-という力強いメッセージは、「君の名は。」と同様、普遍のテーマとして作品の根底で貫かれている。

 興収は早くも120億円を突破した。2作連続の100億超えは日本では宮崎監督以来2人目だ。

 「次作の構想ですか? 早く作りたい。すでに、前のめりになっている自分がいます」

 優しい笑顔でこう語るが、アニメ文化を背負う気迫と覚悟が全身からみなぎっていた。(ペン・波多野康雅/カメラ・南雲都)

 ■新海誠(しんかい・まこと) アニメーション映画監督。1973年2月9日生まれ、46歳。長野県出身。中央大学文学部卒業。ゲーム会社に就職するが、5年後に退社。監督、脚本、演出などほぼ1人で手掛けたアニメ「ほしのこえ」(2002年)で劇場公開映画の監督としてデビュー。「星を追う子ども」(11年)、「言の葉の庭」(13年)など海外の映画祭でも高く評価され、米国の雑誌「バラエティ」が16年に発表した「注目すべきアニメーター10人」の中に日本から選ばれた。

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