「人間失格 太宰治と3人の女たち」蜷川実花監督 文豪への畏敬を映像に

 「人間失格 太宰治と3人の女たち」は、蜷川(にながわ)実花監督(46)が文豪、太宰治(1909~48年)の半生を、独特の色彩感覚で鮮烈に描く話題作だ。いわば、小説のためにすべてを捨てた太宰に対し、同じ創作者として蜷川監督が抱いた思いが、作品には投影されている。(石井健)

 小説「人間失格」を映画にするはずだった。太宰が、死の直前に書き上げた代表作だ。だが、準備のため調べるうちに、文豪の人生のほうに興味が向いた。中でも妻と2人の愛人が残した手記に刺激された。

 また、同じ創作者なのに自分とはまったく違う太宰の生き方に、あこがれと畏れを同時に抱いた。

 その結果、小栗旬(36)演じる太宰と妻の美知子(宮沢りえ)、静子(沢尻エリカ)と富栄(二階堂ふみ)という2人の愛人との愛憎模様と、作家としての尽きることのない創作意欲という2点から太宰という人間の強さと弱さを描く作品が生まれた。

 太宰は身重の美知子と2人の子供がいながら、恋と自殺未遂を繰り返す。妻はそれでも太宰を支え、その励ましで太宰は「人間失格」の執筆に取りかかる。

 蜷川監督は、太宰が同作を執筆する場面を、筆が進むほどに太宰を残して書斎が解体されていく映像にした。

 「太宰が、創作のために家庭を崩壊させる。しかし、それにより太宰は、ある種の解放を手に入れたのかもしれない、ということを表現しています」

 太宰を演じる小栗とは、その人物像をめぐって、頻繁に話し合ったという。

 「撮影前に役者と役について話したのは、今回の小栗くんが初めてかな。太宰には、“人である幸せ”をあきらめたときの強さのようなものがあるけど、人としての弱さもしっかり表現したいと伝えました」

 ラストシーンは「太宰の素直な気持ちを考えたら、こっちのほうがよい」と現場でひらめき、急遽撮り直した。尽きせぬ創作意欲。蜷川監督が畏敬する太宰像のすべてが、この一瞬に凝縮されている。

 13日から東京・丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマなどで全国公開。2時間。

 にながわ・みか 写真家、映画監督。昭和47年、東京都出身。平成13年、木村伊兵衛写真賞を受章。「さくらん」(19年)で映画監督デビュー。「ヘルタースケルター」(24年)、「Diner ダイナー」(令和元年)。来年はネットフリックスで「FOLLOWERS」を配信予定。東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会理事。父は演出家、蜷川幸雄。

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