被災地舞台の群像劇「美しく青く」 震災後の「生々しい美」 赤堀雅秋×向井理

 東日本大震災から8年以上が経過した東北地方。人気脚本家の赤堀雅秋(まさあき)(47)が手掛ける群像劇「美しく青く」は、被災地に住む人々の閉塞(へいそく)感やかすかな希望を、日常生活を通して描いた作品だ。「描きたかったのは身近な人々の幸福のあり方」。作品が持つ日常の「生々しさ」にひかれたという主演の向井理(37)は「生きることの醜さ、美しさが詰まった物語だ」と話した。(三宅令)

 あれから8年がたち、日常を取り戻しつつある町は、人慣れした野生の猿による「猿害」に悩まされていた。青木保(向井理)らは町のため自警団を結成するが、成果は上がらず、理解者も少ない。保が自警団にのめり込む一方で、妻(田中麗奈)は認知症を患う実母(銀粉蝶)の介護に疲れ果てていた…。

 演出、脚本家や映画監督として活躍する赤堀。市井の人々を見つめる独特の世界観は、映画「その夜の侍」(平成24年)で新藤兼人賞金賞、上演台本「一丁目ぞめき」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞するなど、高い評価を得ている。

 その赤堀が作・演出を担う本作は被災地が舞台だが、決して震災の記憶は前面に出てこない。時折、主人公の幼い娘が亡くなったという事実が物語に影を落とす程度。赤堀は「“震災”が観劇の入り口になってほしくない。斜に構える人や拒否反応を起こす人がいるだろうから」と話す。

 当初は、仮設住宅が舞台で、原発反対運動も出てくるあらすじだった。しかし、あらかた構想が出来上がった後に福島を訪れ、「僕のような拙い劇作家がしたり顔で描けることではない」と実感。脚本を書き直した。「震災を、観客を感動させるための道具立てにしたくなかった」

 もっとも、物語の根本的なテーマは変わらない。「人間の営み、幸福のあり方を書きたい」と話す。登場人物をあえて東北弁にしないのも、舞台上で展開する世界を観客と地続きだと感じてほしいからだ。「例えばこれが再来年の東京の姿だといっても納得してもらえるような。僕はただ人間を見つめたい」

 今作で初めて、赤堀の演出する舞台を踏む向井は、「僕が赤堀さんの作品を好きな理由は、日常の地続きの物語であること」と熱を込める。「単純な話では終わらない。幕が下りた後に考えさせられる」

 主人公の保は、集落の人間関係や、義理の母や妻が抱える問題と向き合おうとせず、「逃げてばかりの男」だという。そのぶざまで生々しい人物造形にもひかれた。「問題を後回しにする気持ちは分かる。世の中、実直な人間ばかりではない。誰でも、逃げ口を見つけて生きている」と優しい目線を注ぐ。

 震災当時、向井は大阪で舞台の初日を迎えていた。「無理を通して上演し、当時は不謹慎だと批判された。九州への巡業も『あいつは逃げている』なんて言われた」と苦い思い出を振り返る。「エンターテインメントは絶対的な平和の上に成り立っているということに気付かされた」

 震災を背景に、日常を描いた作品を主演するにあたって、「何げない日常って絶妙なバランスで存在していて、本当は得難いもの」だと語る。「舞台を通して、改めて生きることの醜さや美しさを感じてもらえれば」と笑った。

 Bunkamuraシアターコクーン(東京都渋谷区)で、11日から28日まで上演。問い合わせは、Bunkamura、03・3477・3244。

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