老舗温泉旅館にオフィス、コロナ禍追い風に在京企業進出続々 佐賀・嬉野 

 佐賀県嬉野市の嬉野温泉の老舗旅館「和多屋別荘」が、新たな形の企業誘致を進めている。客室や宴会場をオフィスに改装し、旅館従業員用の寮を進出企業の従業員に開放。昨春に東京から1社が進出してきた。新型コロナウイルス禍の影響で東京一極集中を見直す機運が生まれたことを追い風に20日、新たに在京企業4社の入居が決まった。職住近接で「温泉入り放題」をアピールし、さらなる誘致を目指す。(中村雅和)

 「旅館は1泊2食に最適化しているが、それだけをやるべきではない。旅行客にとって快適であれば、働く人にとっても最高の場所にできるはずだ」

 20日、嬉野市と進出企業4社の立地協定締結式で、和多屋別荘の小原嘉元社長はこう強調した。

 客室のオフィス転用は平成25年、3代目として社長に就いて以来、小原氏が進めてきた「旅館業イノベーション」の一環だ。約2万坪と広大な敷地に約130の客室や宴会場、テニスコートなどを持つが、稼働率が低いままの施設が少なくなかった。団体旅行依存から、個人客へと誘客のターゲットを変えていく中、収益の新たな柱としてテナント誘致を企画した。

 温泉だけでなく、嬉野茶や400年の歴史を持つ肥前吉田焼など地元産品をPRする地元有志のプロジェクト「嬉野茶時(ちゃどき)」の活動を通じて知り合った東京のプロモーション会社、イノベーションパートナーズの協力も得て、単なるオフィス誘致ではなく、温泉旅館で仕事をする環境に魅力を感じた入居企業間で協業し、新たな事業を生み出す場にする-というコンセプトが固まった。

 イノベーションパートナーズは第1号として、昨年4月に10年契約でオフィスを入居させた。今回、入居が決まった4社はさまざまな事業を手掛け、異業種交流による相乗効果を期待する。県や市が賃料の4分の3を補助する優遇策があるが、3年間限定。小原氏は「補助が終わって撤退する、ではいけない。嬉野に根付かせられるよう黒字化に向けて自分たちも協力する」と強調する。

 今回入居した外国人向け英字フリーマガジン発行やマーケティングなどを手掛けるENGAWAの牛山隆信社長は「トレンド収集は大都市に分があるが、分析はどこでもできる。地方であっても問題ない」と強調する。葬儀業界向けデジタル化支援サービスを手掛けるライフエンディングテクノロジーズの白石和也社長も「災害時の事業継続という観点もあるが、採用時に『温泉旅館に支社がある』ということは差別化の武器になる」と語った。

 4社の誘致に協力したイノベーションパートナーズの本田晋一郎社長は「革新的な場があると人が集まり育っていく。今後もそんな環境作りを目指していく」と述べた。

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