「僕らが行くしか」キッチンカーや宅配へ 苦境の外食産業 コロナに克つ

 広場に止まったキッチンカーから、香ばしい焼き肉の匂いが漂う。昨年11月下旬、大阪府豊中市にある団地の昼下がり。「たまにはね、人が作ったあったかいご飯を食べたくて」。焼き肉弁当を手に、近くの1人暮らしの女性(83)が笑う。「新型コロナウイルスのせいでお友達と会うことも、子供と孫が来ることもなくなって、外で食事をしなくなったから」

 新型コロナは食事のシーンを大きく変えた。長時間にわたって飲食を共にすることは感染リスクを高めるとされ、飲食店は感染が拡大傾向になるたびに、営業時間の短縮などを要請された。東京商工リサーチの調査では、昨年の飲食店事業者の倒産(負債額1千万円以上)は842件で、過去最多となった。

 ■「僕らが行くしか」

 厳しい経営状況の中、中小規模の飲食店を中心に注目を集めたのがキッチンカーだ。大阪府内では昨年4~12月の新規営業申請が120件以上にのぼり、イベント会場やオフィス街だけでなく、住宅街でもみられるようになった。

 昨年6月に参入した韓国料理店「白雲台」は大阪・鶴橋で創業し、大阪市内などに3店舗を構える人気店だ。コロナで客が激減する中、オーナーの呉龍一(オヨンイル)さん(50)は「『店に集まるな』というなら僕らが行くしかない」といい、大阪府内の住宅地を中心に弁当を販売する。

 キッチンカーの開業を支援する「Mellow(メロウ)」(東京)は「来店客が減った飲食店に活用されている」と説明する。昨年3月から10月で開業に関する問い合わせは約10倍に増え、うち7割ほどが飲食店の経営者からだったという。

 一方、宅配やテークアウトを専門とする店の開業も相次いでいる。飲食スペースのない「クラウドキッチン」とも呼ばれる店で、調理場やスタッフを複数の店で共有する形態も増えてきた。外食チェーン店に勤めていた有迫(ありさこ)淳二さん(41)が昨年9月に立ち上げた「クラウドキッチンしょくの杜」(大阪市東住吉区)もその一つだ。

 「コロナ禍の被害を受けた飲食関係者の再起の場にしたかった」と有迫さん。たとえば個人経営の店が下処理した食材やたれなどを提供し、「しょくの杜」に仕上げの調理と販売を委託。調理を担当するのは、コロナの影響で仕事を失った調理師らだ。店側は販路を拡大して収益を増やすことができ、調理師にも仕事が生まれる。苦境に直面した飲食店が協力してコロナ禍を乗り切り、安定した経営を目指す仕組みだ。

 ■客の顔見える店を

 「今奪われているのは、単に外で食べる機会ではない」。食と社会の関わりを研究する法政大の湯澤規子教授はこう訴える。「外食は友人や同僚らが集い、たわいない話をしたり悩みを打ち明けたりするツール。店の人や隣り合った客と話すなど、他者との偶然の接点に満ちている。このまま失ってしまうには惜しい」

 飲食店向けの換気や消毒の技術開発も進んでおり、空調機器大手「ダイキン工業」が客席に換気設備がなかった店でも後付けできる機器を開発するなど、より安心できる食事環境が実現しつつある。アフターコロナの世界で、以前よりさらに幸せで安全な、充実した外食風景を取り戻すために。有迫さんは「お客さんの顔が見える店を守りたい」と力を込めた。(藤井沙織)

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