現代の名工、静岡県から5人受賞、機械時計組立調整工・村松富近さん(75)、時は命「1秒を大切に」

 工業技術や衣服、建設など各分野で卓越した技能を高め、業界の水準向上を図ってきた技能職人を厚生労働大臣が表彰する令和元年度の「現代の名工」に本県から5人が選ばれ、表彰式は11日、東京都内のホテルで行われる。受賞者のうち、沼津市の機械時計組立・調整工、村松富近さん(75)=ムラマツ時計眼鏡店=にこれまでの歩みと受賞の喜びを聞いた。

 ほかの受賞者は、金属研ま工、森藤庄司さん(76)=静岡市、五十鈴刃物工業▽建築とび工、野ケ本明さん(74)=牧之原市、明建▽広告美術工、守屋勝博さん(64)=浜松市、サインアートモリヤ▽げた製造工、佐野成三郎さん(81)=静岡市、駿河塗下駄工房佐野。

 森藤さんは研磨技能に卓越し、誤差100分の1ミリ以内という精度を誇り、各業界の生産効率の向上に寄与。後進の育成にも尽力している。野ケ本さんは大型機械の設置作業を曳家(ひきや)の技を用いて指揮し、高い評価を得ている。国内外を問わず技能者の育成に努めている。

 守屋さんは広告美術工の貴重な技能に秀でており、県内の広告美術技能の向上・継承を先頭に立って図っている。佐野さんは駿河塗下駄の伝統的な技法を行える唯一の存在として活躍。後進技能者への技術指導・育成に尽くしている。

 ばらして、洗って、組み立てる。ルーペとピンセットは自分の体の一部のようなものだ。機械時計の修理を究めて54年。県内に数えるほどしかいない機械時計全般を修理できる職人として最高の栄誉を受けた。

 思い出が詰まった腕時計、実家の壁に掛かったままの重厚な柱時計など、その手にかかれば動かない時計はまずない。インターネット受注の恩恵もあって依頼は全国から寄せられ、同業者から「自分の手には負えない」と持ち込まれることも多い。

 古希を過ぎても店頭の一角で店番をしながら、年間100個以上の時計に時を刻むことを取り戻す作業に没頭する。ルーペで見ながら細かなパーツを削り、時には100分の5ミリしかない穴を磨き、円滑に動くよう微調整を繰り返しながら組み立てていく。気が遠くなるほど繊細な手仕事だ。

 職人魂が刺激されるのは見たこともない時計に出合ったときだ。「どうやって修理しようかとワクワクするんです」と目を輝かせる。数ミリの小さな部品一つ一つの位置と動き方を詳細に記した手書きの“設計メモ”をつくる。「写真に撮るだけでは部品の重なりが分からないんです」とコツコツと書きためたメモは、一枚一枚が世界にただ一つしかない、職人にとっての宝物だ。

 上達のコツは「ただひたすら数をこなすこと」。だから、機械全般の組み立てや修理は苦にならない。クラシックカーの模型製作が趣味で、店にはマニアが感嘆するような完璧な完成品が何台も飾ってある。

 手軽な電池式時計に押され、ゼンマイで動く機械式時計の愛用者は激減。若い世代を中心にスマートフォンで代用して腕時計を持たない人も増えた。そんな時代にあって「針のある時計は正確な時刻が分かるだけでなく、針の位置で時間の流れを目に見える形で示してくれるんです」と、昔ながらの機械式時計に強い愛着を持っている。

 1秒という時間は案外長い。「あいさつは全て1秒以内で完了しますし、人は1秒あれば、ほっと落ち着くことができます。ぜひ時計を身につけて、1秒を大切にしてほしい」。二度と戻らない時間の重さを訴える。モットーは「時は金なり」ならぬ「時は命なり」。1秒1秒を大切にしながら「あと10年は現役を続けたいですね」と柔和な顔をほころばせた。

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