日産の4駆EV、1万分の1秒の制御で「意のまま」ドライブ

 日産自動車は、2つの電動モーターを搭載した4輪駆動の電気自動車(EV)を開発中だ。EVは排ガスを出さない環境性能が注目されてきたが、それだけでは普及に限界がある。日産はEV特有の走行性能や操る楽しさを前面に出しており、来年にも投入する4駆EVは、それを体現する重要な車種になりそうだ。

 4駆EVの最大の特徴は、それぞれの車輪を1万分の1秒単位で緻密に制御し、これまでの車とは異なる乗り心地や運転感覚を実現していることだという。4駆のエンジン車は、前輪と後輪を結ぶ「プロペラシャフト」で車輪に駆動力を伝えており、前後輪の駆動力の配分変更には限界がある。だが、EVは前後にそれぞれモーターを搭載しているため、きめ細かく制御できる。左右の車輪についても、どちらかだけにブレーキをかけて制御することが可能だ。

 日産は4日に閉幕した東京モーターショーに、4駆EVのスポーツ用多目的車(SUV)の試作車「アリア コンセプト」を出展。発表会で中畔(なかぐろ)邦雄副社長は、「高い次元の発進・加速性能と、意のままのドライビング、これまでにない安心感を提供できる車だ」と強調した。このアリアを市販化する可能性が高い。

 4駆EVの発売時期について、日産は「近い将来」としているが、来年の公算が大きい。辞任した西川(さいかわ)広人前社長の後任として、内田誠専務執行役員が12月1日に社長に昇格し、経営不振からの脱却を目指す。電動車を事業戦略の柱に据えており、4駆EVの成否は業績回復のカギを握りそうだ。

 日産は、4駆EVの開発に向け、市販EV「リーフe+」をベースに2基の電動モーターを搭載した試作車をつくった。神奈川県横須賀市にある同社のテストコースで試乗したところ、4駆EV特有の新しい運転感覚の一端を体験することができた。その斬新さを商品に落とし込み、多くの消費者に伝えられるかが課題になりそうだ。

 当日はあいにくの雨だったが、日産の担当者は「路面を問わず安心して乗れる車です」と強調した。

 試作車に乗り込んでアクセルを踏み込むと、走り出しからよどみなくスピードが上がっていく。リーフも、回転数が上がるまでに時間がかかるエンジン車と比べてスムーズだが、加速力は大きく向上していた。

 次は時速40キロ程度から20キロへの減速。一般的に車が急減速すると、前部が沈み込み、乗員の頭が前につんのめるような感覚を味わう。だが、4駆EVでは瞬時に駆動力を後輪に配分してブレーキをかけ、車両の姿勢を制御する。むしろ、後方に引っ張られるような力を感じた。

 そしてスラローム(くねくねと左右に曲がるように走行)や旋回では、ハンドルを回したままスピードを上げても、外側に横滑りするような感覚がまったくないことに驚いた。内側の車輪に適度なブレーキをかけることでスムーズに曲がることができるという。急カーブでも車線逸脱の心配はなさそうだ。

 日産がこの4駆EVに期待をかける背景には、まだまだEVという商品が「売れていない」現状がある。累計販売台数が最も多いEVであるリーフでも、今年度上期(4~9月)の国内販売台数は9244台で、登録車(軽自動車を除く)38位。首位のハイブリッド車「プリウス」(トヨタ自動車)の約7分の1だ。消費者にとって「どうしてもEVに乗りたい」という動機はまだ希薄といえる。

 その点、試乗した4駆EVにはこの車にしかない持ち味があり、EVに関心を持っていない消費者を振り向かせられる力があると感じた。減速時の姿勢維持は渋滞時での快適性を向上させ、同乗者の車酔いも防止できそう。旋回性能は山道の急カーブや滑りやすい雪上での運転で威力を発揮するとみられる。日産がこれらの性能を乗員が自覚できるように市販化し、4駆EVの独自性を幅広く伝えていけるかが注目される。

 価格設定も課題だ。斬新でも高価すぎれば、高級スポーツカーのように一部の愛好者だけのものになりかねない。それでも技術的な象徴にはなり得るが、業績回復を目指す日産にとっては、拡販に成功することが重要だ。(高橋寛次)

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