かんぽ不正販売、中途半端な民営化に問題あり

【ビジネス解読】

 かんぽ商品の不適切販売をめぐり、日本郵政グループが揺れている。9月30日に発表した中間報告では、保険業法などの法令や社内規定に違反した契約の実態が次々と明らかになり、コンプライアンス(法令順守)への意識の低さが露呈した。不正を放置した経営陣の責任も重大だが、不適切販売の原因はもっと根深いのである。

後手に回り続けた対応

 「不適切な販売ではない」。問題発覚直後の6月下旬の定例記者会見で長門正貢社長はこう主張した。また、販売を受託する日本郵便は全国の社員に「これからも自信をもって営業活動を行っていこう」との通達文を送っていた。明らかに初動を誤り、対応が後手に回ることになる。

 そもそも、かんぽ生命保険と日本郵便には、これまでにも内部告発や年数千件もの苦情が寄せられていた。両社はそれらに真剣に向き合わず、結果として不適切な販売で実績を上げる社員を称賛してきた。

 そして、迷走は続く。8月末には、自粛していたかんぽ商品の販売を10月1日から順次再開すると発表した。調査は始まったばかりだったが、かんぽ生命は「原因究明と再発防止策に一定のめどが立った」と説明した。そのころ現場は「不適切販売とは関係のない人たちまでが解約に訪れ、混乱を極めていた」(東京都内の郵便局)という。

 経営陣は顧客対応や現場の混乱回避よりも株価対策を優先した。かんぽ生命の株価は7月に時価総額が上場以来、初めて1兆円を割り込むなど、日本郵政グループの上場3社の時価総額はピーク時から半減していた。グループ幹部によると「早く販売を再開して、業績悪化に歯止めをかけないと、株主代表訴訟になりかねない」と説明した。

 結局、高市早苗総務相から「まさか販売再開なんてしませんよね」とクギを刺され、来年1月に延期せざるをえなくなり、改めて認識の甘さを印象づけることになった。もっとも現場からは「1月に販売を再開するのも無理」(首都圏の郵便局)との声も聞こえる。

問題は制度設計に

 不適切な販売をした社員は言うに及ばず、誤った判断を繰り返す経営陣は大いに批判されてしかるべきだ。長門社長が「全く情報が上がってこない」と繰り返すガバナンス(企業統治)不全はあきれるばかりだ。

 ただ、それを「けしからん」と批判すれば解決するほど、ことは単純ではない。

 というのも、日本郵便をはじめとする日本郵政グループはある意味、無理をしないと利益が上がりにくい構造になっているからだ。

 日本郵政と日本郵便は郵政民営化法で金融を含めた全国一律サービスを義務づけられ、それを担保するために過疎地や離島など民間が拠点を持たない不採算地域を中心に2万4000の郵便局を展開している。

 また、郵便事業では第3種、第4種の社会政策的割引料金が国営時代のまま残っており、毎年約70億円の赤字を垂れ流している。

 こうした構造的な赤字要因をカバーするために、郵便局では保険や投資信託を売って、手数料収入を稼がなければならない。かんぽ生命とゆうちょ銀行から日本郵便に支払われる窓口委託手数料は実質的に年間約1兆円にも上る。

 ただ、日本郵政には政府の出資が残る。その日本郵政の株式保有比率が過半を占める現状では、かんぽ生命やゆうちょ銀には、同業他社への配慮が民営化法で求められている。両社には預入・加入限度額の設定をはじめ有形無形の規制が存在しており、他社に比べて「商品が劣後する」(かんぽ生命幹部)のが実情だ。同社幹部は「株を売らないと新商品は認められない。だが、株を売るためには現在の商品ラインアップでも企業価値を高めることが求められる、という負のスパイラルに陥る制度設計となっている」と嘆く。

 日本郵政グループは民間企業として利益を上げなければならない。そのことが、現実から乖離(かいり)したノルマの設定につながり、不適切販売を行う遠因になったことは否定できない。そして、疑わしい社員を追及するにも、かんぽ生命は「日本郵便の社員に対する人事権がないので限界がある」(幹部)という。これは、分社化による製販分離の弊害ともいえる。

 もちろん、理由はどうあれ不正販売は許されるはずはない。ただ、現場からは「顧客本位と無理なノルマのはざまで、多くの郵便局長や社員が苦しんでいる」(日本郵便関係者)との悲痛な声が聞こえる。

 真剣に再発防止を考えるのであれば、ガバナンスのあり方やコンプライアンスの徹底などと合わせて、現在の民営化・分社化の制度設計の妥当性にまで踏み込んで検証する必要があるだろう。(福島徳)

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