10月に控える消費税増税 周知する広告を流せない事情とは

【経済インサイド】

 10月の消費税10%への引き上げがいよいよ迫ってきた。だが、増税を目前にしても増税を周知する広告はほとんど目にしない。その代わりに見る機会が多いのは、飲食料品などの税率を8%に据え置く軽減税率制度の準備を促す広告だ。政府は、過去の消費税増税時に増税を周知する広告を積極展開してきたが、今回はなりを潜める。その背景には諸事情が隠されているようだ。

 「軽減税率に対応していないレジは、卒業の季節です」。国民的アイドルグループ「乃木坂46」の中心メンバーとして活躍する白石麻衣さんが先生役となり、生徒と見立てた中小企業の方々に“古いレジからの卒業”を呼びかける…。

 消費税増税まで残り2カ月を切った8月。こんなストーリーのテレビCMが突如、始まった。中小企業を対象に軽減税率対応レジへの早期更新を促すため、経済産業省が制作したものだ。昨年のタレントCM起用社数ランキングでは、総合トップを獲得するほどの人気を誇る白石さん。国民的アイドルの起用で、国民への爆発的な周知効果を狙ったと思われる。

 経産省は、軽減税率に対応した新たなレジを導入する中小企業に補助金を支給する制度を約3年前から始めている。消費税増税が2度にわたり延期された影響もあってか、補助金の利用者は少なく、対応レジへの移行はスムーズに進んでいない。日本商工会議所が今年8月に発表した調査結果によると、軽減税率制度に対応するレジの導入については約4割の事業者が「未着手」と回答している。

 増税を目前にしてもレジ更新が進まない現状に焦った経産省が、国民的アイドルの力を借りて対応レジへの切り替えを促すよう動き出した…。そう見る向きが一般的のようだが、他の経済関係省庁の幹部は「そんな単純なものではない」と、ひっそりと話す。

 対応レジへの切り替えが遅れていることは、政府はアンケートの結果などで1年以上前から認知している。そのことを考えても、宣伝による周知は半年前からでも始められたはずだ。

 そんな状況だったにも関わらず、増税直前になってようやく軽減税率への対応を促すCMを流し始めたのは、7月の参院選を意識したためといわれている。「たとえ軽減税率を意識させた広告だったとしても、少しでも増税を連想させる宣伝をすれば家計負担が重くなるイメージを有権者に与えかねない。そうなると投票結果にも影響する」(前述の幹部)。そう考えた政権が積極的なPRを避けたというのだ。

 また、ここに来て軽減税率対応レジへの切り替えばかりを訴えるのも、「『増税』よりも『軽減』という単語を使った方が、国民の痛税感が和らぐ効果がある」(同)との皮算用だ。

 さらに、別の政府関係者によると、消費税増税の使途や目的を周知する広告を作成するために「人気タレントを起用する案があった」と明かす。だが、「増税は国民からの反発もあり、イメージ悪化にもつながりかねないとの理由で多くのタレントに断られた」という。「軽減」に関するCMは受けても「増税」を連想させるものは避けたいというのは、タレント側も同じなのである。

 振り返れば、消費税率が5%から8%へ引き上げられた平成26年の前回の消費税増税時には、軽減税率の導入がなかったとはいえ、増税分の使途や目的などを周知する広告にあふれていた。増税の前月には、「増税分5兆円はすべて子育て・医療・介護・年金といった社会保障のために使われます」などと書かれたA3版カラーの4ページ構成の新聞チラシを配布し、税の使途から負担軽減のための給付金の説明まで丁寧に説明がなされていた。

 増税後も、当時の人気子役の芦田愛菜ちゃんを起用し、増税効果をアピールするテレビCMが茶の間をにぎわした。とはいえ、このときも子供の無邪気さを利用し、増税批判をかわそうとする政府の“あざとさ”のようなものを感じたものだが…。

 10月に控える消費税増税では、軽減税率制度や増税に伴う幼児教育の無償化、プレミアム商品券の発効やポイント還元制度など多くの施策が実施される。これまでの増税時に比べても説明すべき事項が多くあるはずだ。国民的アイドルを起用したレジ更新を促す広告効果も気になるところだが、まずは国民目線を意識した丁寧な周知が必要なのではないのだろうか。(経済本部 西村利也)

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