鉄鋼業界に中国リスク、製品安と原料高のダブルパンチ

【経済インサイド】

 日本製鉄などの鉄鋼大手が、業績不振にあえいでいる。製品である鋼材の国際価格が落ち込んでいるにもかかわらず、原料の鉄鉱石価格が値上がりしてコストがかさむ「ダブルパンチ」で、利ざやが確保できなくなっているためだ。元凶とされるのが「中国リスク」だ。ここ数年、中国の過剰生産や米国の輸入制限に振り回されてきた業界にとって、一向に気の休まらない局面が続く。

 「鋼材価格が下落し、鉄鉱石価格が上昇している。中国リスクが顕在化している」

 8月1日に行われた日本製鉄の令和元年4~6月期連結決算会見。宮本勝弘副社長は、険しい表情で業績不振の要因を分析した。

 同社の4~6月期は、最終的なもうけを示す連結最終利益が、前年同期比61・0%減の333億円と大幅に減少した。落雷による君津製鉄所(千葉県君津市)の停電という予期せぬトラブルもあったが、最大の要因は製品安と原料高だ。

 残る大手のJFEホールディングスと神戸製鋼所も業績が悪化している。神鋼は売上高に占める鉄鋼事業の割合が低めとはいえ、4~6月期の最終損益が赤字に転落。JFEHDは、2年3月期の本業のもうけを示す事業利益の見通しを、1800億円(前期比22・4%減)から1400億円(同39・7%減)に下方修正した。

 業績悪化に苦しんでいるのは海外勢も同じだ。粗鋼生産量で世界首位の欧州アルセロール・ミタルは、4~6月期の最終損益が赤字に転落。5月には英国2位のブリティッシュ・スチールが破綻している。

 業績不振を受けて、日本製鉄は急遽、3年3月期まで3年間の設備投資を1割程度圧縮すると決めた。JFEHDの寺畑雅史副社長も8月9日の決算会見で国内の生産調整に踏み切る方針を明かし、「今の収益状況が続けば設備投資の圧縮も考えなければならない」と危機感を示した。

 鋼材価格は低下の一途をたどっている。米国の輸入制限で行き場を失ったロシアやトルコの製品が欧州や東南アジアへ流入。さらに米中貿易摩擦で世界経済の減速感が強まり、自動車などの生産が縮小した結果、鋼材需要にも陰りが出ている。日本製鉄によると、代表的な鉄鋼製品で、建設など幅広い分野で使う熱延コイルの価格は、昨年度下期から今年度下期にかけて1トン当たり7千円落ち込む見通しという。

 もっとも、苦境の理由はそれだけではない。

 鋼材需要が減れば、鉄鉱石の需要も減り、値下がりするのが普通だ。メーカーにとっては製品価格が下がっても、利ざやさえ稼げれば問題ない。ところが、指標となる中国向け豪州産鉄鉱石のスポット価格は、1月2日時点の1トン=約72ドルから、7月初旬には約126ドルまで高騰。直近は100ドルを切っているが、高水準であることに変わりはない。

 異常な値上がりは、1月にブラジルで発生した鉄鉱石大手、ヴァーレの鉱山ダム決壊事故が原因だ。しかし中国の景気刺激策で鋼材需要が増え、生産を絞っていた現地メーカーが増産に転じた影響も見逃せない。中国の1~6月の粗鋼生産量は、前年同期比9・9%増の4億9216万トンと過去最高を記録。中国は世界生産の約半分を占めるだけに、鉄鉱石価格への影響力も大きい。

 業界は数年前、中国勢の大増産と投げ売り同然の安値輸出による鋼材価格の暴落で大いに苦しんだ。その後、「ゾンビ企業」の淘汰で過剰生産は解消されたかにみえたが、国内大手社員は「またかという感じだ」と苦々しげに語る。

 鉄鉱石価格は、中国の景気刺激策が続く限り高止まりするとみられる。日本製鉄の宮本副社長は「道路や地下鉄の予算はすでに来年度の分も見えており、(ダブルパンチは)続くのではないか」と警戒する。

 もっともそれ以上に怖いのは、刺激策が急に打ち切られた場合だ。中国の鋼材需要がしぼみ、自国で消費しきれなくなれば、いつ現地メーカーが安値輸出を再開しないともかぎらない。そうなれば鋼材価格はさらに下がりかねない。顧客の生産もしぼむ中では、値上げの効果にも期待しづらいのが実情。今後も苦境が続けば生産集約など、生産調整や設備投資の減額以上の「荒療治」を求められる可能性も出てきそうだ。

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