軽減税率制度「複雑すぎる」の声 消費増税まであと1カ月、課題改めて浮き彫りに

【迫る10%】(1)

 ■理解浸透せず、レジ改修遅れ

 消費税の税率が10月1日に8%から10%へ引き上げられる。増税は5年ぶりで、軽減税率など新制度も導入される。施行まで1カ月となり、暮らしや社会への影響が注目される一方、消費税をめぐる課題も改めて浮き彫りになってきた。行政、政界、産業界や海外の事例も取材し、多面的に検証する。

 「どう対応するか、まだ何も決まっていない」

 鮮魚店や食料品店が軒を連ね、「大阪の台所」として知られる大阪・ミナミの黒門市場(大阪市中央区)。8月中旬、増税と軽減税率への準備について聞くと、店主らは口をそろえて困惑したそぶりをみせた。

 消費税の標準税率は10%だが、酒類と外食を除く飲食料品は生活必需品として軽減税率が適用され、8%に据え置かれる。小売店は「10%」「8%」の2種類の税率に対応できるレジの導入が必要となる。

 ただ、制度の仕組みは必ずしも浸透していない。

 「レジを新たに買うには費用がかかる。対応をどうするか、もう少し検討したい」。店内でステーキを提供している黒門市場の精肉店「丸善食肉店」店長、豊川洋行はこう話す。同店の場合、イートイン(店内飲食)は標準税率の10%、精肉を購入し持ち帰る場合は軽減税率の8%がかかる。

 政府は軽減税率対応のレジ導入に対する補助金を用意しているが、申請は7月末時点で11万8000件と、想定の4割弱にとどまった。

 だが、店側も「面倒くさい」「分からない」で済まされない。どんな価格であれイートイン用に販売した商品は10%分の消費税額を税務署へ申告し、正確に納税する義務があるからだ。

 「みりんや料理酒は酒類なので10%だが、みりん風調味料は8%」「おもちゃ付きお菓子は、セットでの販売価格が税抜き1万円以下で、食品の価格が全体の3分の2以上なら軽減税率の対象となり8%」-。これらは国税庁が公表している「Q&A集」のごく一部だ。

 「覚えられる頭脳ありません。時間ありません」。軽減税率の事例の多さに対して、インターネット上でも悲鳴が上がる。小売業界の関係者も「現場でパートやアルバイトが説明できるだろうか」と心配顔だ。

 国税庁は制度の周知に懸命だ。税務署や商工会議所などを通じ、これまで全国で約6万回の説明会を開き「申告ガイド」を約850万の事業者に送付した。

 税理士の危機感も強い。「うちの顧客を困らせるわけにはいかない」。東京都中央区の税理士、大西康記(こうき)は資料を手作りし、顧問を務める会社に制度の仕組みや帳簿の記帳方法などを説明して回っている。

 初めて導入される軽減税率だが、海外では珍しい制度ではない。財務省によると、1月現在で、英国の付加価値税(消費税)の標準税率が20%で食品が原則0%、ドイツは標準税率が19%で食品が原則7%-となっている。

 「日本も平成元年に消費税を導入したとき『けしからん』という怒りの声が起きた。ただ、時間がたつと浸透した」。国税庁幹部はこう語り、今回の増税と軽減税率も時間とともに定着するのではと期待する。

 ただ、混乱の種は軽減税率だけではない。今回の増税に合わせ、個人消費の下支え目的で、現金を使わないキャッシュレス決済での買い物に5%または2%のポイントを返す「ポイント還元策」も導入される。事業規模などで店によっては還元率が異なるなど複雑で、対応を迫られる店も出てくる。

 「痛税感」という増税のデメリットを緩和するため導入される軽減税率とポイント還元策。だが、増税が目前に迫っているのに、国民の理解は十分浸透せず、業者の準備も遅れ気味だ。想定以上に混乱が広がれば、増税自体への国民の嫌悪感が強まりかねない。=敬称略

【用語解説】軽減税率制度

 生活必需品の消費税率を一般の商品より低くして家計の負担を抑える制度。日本では10%への増税に合わせて初めて導入され、外食・酒類を除く飲食料品や、定期購読の新聞の税率を8%に据え置く。外食はテーブルや椅子など飲食設備のある場所でのサービス提供と定義されており、持ち帰り品や宅配、出前は軽減税率の対象となる。

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