町工場を元気に 安価で使いやすいソフトで独自の存在感

 【経済インサイド】 

 精密機械加工など中小企業が、IT(情報技術)やクラウド基盤を活用したソフトウェアを続々と登場させている。中小企業は、納期や見積もりなどの情報管理において、ITを導入するようなお金を掛けることはできない。しかし、大手メーカーから仕事を受注するためには、社内の状況を素早く把握する仕組みが不可欠だ。そこに、安価で使い勝手の良さを追求したソフトのニーズが生まれていた。

 「これができてからは、何度も得意先に携帯電話をかけることがなくなり、『言ったはず』『聞いてない』」といったトラブルがなくなった」。自動車向け金型や治工具などの開発製造を手がけるダイヤ精機(東京都大田区)の諏訪貴子社長が、ノートパソコンを手にこう話した。

 同社は今春、ソフト開発のテクノア(岐阜市)と共同で、中小製造業向けの情報共有ソフト「リスタ」を開発した。名刺を基にした顧客管理や納品日程、掲示板、全社員へのメッセージ、売り上げや不良品発生などの目標値といった情報を一つの画面に集約した。重要な連絡事項は接続開始直後の画面に表示。「確認した」にチェックを入れなければ、次の画面に進めなくしたことで、コミュニケーションの不通を解消した。価格は最初の1カ月は無料で、その後はパソコン1台ごとに月490円(税別)と安価だ。

 諏訪社長は、平成29年11月からNHKで放送されたドラマ「マチ工場のオンナ」のモデルとしても知られる。ダイヤ精機では、もともと大手メーカーのグループウェアソフトを使用していたが、「機能が複雑で、多くの従業員にとっては使いづらいもの」(諏訪社長)だったという。そこで3年前から、誰もが簡単に使えるようなソフトの開発に取り組んできた。

 一方、生産現場の情報共有に力点を置いたのが、ものレボ(京都市中京区)の中小製造業向け工程管理ソリューション(課題の解決策)「小ロットスケジューラー」だ。端末画面上の縦軸に部品、横軸に日にちを充てたマス目に作業工程をタッチして入力。そのデータは、クラウド基盤経由で社内のパソコンやタブレット端末、スマートフォンでも共有される。

 その日の作業が始まるときと終わるときには、端末画面上で該当する仕事のマス目を指でタッチする。作業が順調の場合はそのます目が緑、遅れている場合は黄色、納期に間に合わない場合は赤で表示される。

 パソコンやスマホに不慣れな人向けに、フック付きの小型IoT端末も用意した。鰐口クリップを付けた作業指示書をフックにかけるだけで、タッチ操作の代わりにした。

 営業社員が生産現場の状況を外出先で把握できるため、「生産能力以上に受注を抱え込むようなことがなくなる」(細井雄太社長)というメリットがある。ラインの稼働状況に加え、工程ごとに不良品発生率や作業者別の進捗状況も把握でき、会社全体としての残業の削減にも役立つという。料金は、初期費用が100万円(税別)、月額2万円(同)から。1月の受注開始以降、10社超で利用されている。

 中小製造業の現場では、適正な価格の見積もりも経営課題の一つ。見積額が高いと仕事の受注が取れず、低いと利益が出ない。しかもそのノウハウは経験と勘でしかなかった。そうした見積もりに関するさまざまな課題の解決に役立ちそうなのが、精密部品加工の月井精密(東京都八王子市)のIT子会社、NVT(同立川市)が開発したクラウド基盤を使った見積もり支援サービス「ターミナルQ」だ。

 まずは自社が保有する見積書と図面を登録する。ターミナルQのサービスはこの図面をビックデータとして活用。人工知能(AI)が過去の類似した図面をもとに工程ごとの加工時間も予測、材料費などを含めた全体の受注見積額を計算してくれる。また工程や作業者1人当たりの仕事単価がわかるため、自社で仕事を抱えた方がよいか、他社に仕事を出した方がよいかの判断ができる。

 製造業の現場で使われる図面には、加工に要する時間や材料費、企業からの個別の要望事業などが書き込まれているが、失注時にはそれがそのまま捨てられているという。

 NVTの名取麿一(きよかず)社長は「いままでは不要と思われていた図面の情報は、未知の宝がたくさん詰まっている」と話す。すでに1200社の企業が、このサービスを利用している。

 高度な技術で日本経済の屋台骨を支えてきた中小製造業。新興工業国の技術水準の向上などで、ものづくりの世界における日本の優位性が相対的に低くなっている。中小企業の現場の課題解決をきっかけに開発されたこれらのITツールは、日本の中小製造業の体質強化に大きく役立ちそうだ。(経済本部 松村信仁)

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