スマホ決済、「100億円還元」から「使い勝手」へ  

 【経済インサイド】

 スマートフォンを使ってQRコードなどを読み取り決済する「スマホ決済」をめぐり、事業者同士の提携による店舗網拡大やアプリの機能拡充などの動きが活発化してきた。100億円単位の予算を投じる消費者への還元競争が激化したが、スマホ決済の認知度の高まりに伴い、“お得感”だけでなく、“使い勝手”を訴求する新たなフェーズに入りつつある。

 「キャンペーンのような一過性(の流行)ではなく、骨太な『インフラアプリ』をつくりたい」。楽天の中村晃一常務執行役員は、5日に開催したJR東日本との提携発表の会見で強調した。

 楽天とJR東日本は来春からスマホ決済アプリ「楽天ペイ」上で、交通系ICカード「Suica(スイカ)」を発行し、入金(チャージ)ができるようにすると発表した。カードの代わりにスマホをかざすことで、スイカに対応した交通機関や小売店で支払いをすることが可能になる。楽天のクレジットカードからチャージすれば、楽天ポイントをためることもできる。

 楽天グループでは楽天ペイのほか、電子マネーの「楽天Edy」など3種類のキャッシュレスサービスを展開し、利用できる場所は300万カ所とキャッシュレス事業者ではトップクラス。JR東との提携で全国5000の鉄道駅やバス約5万台がスマホで乗り降りでき、駅ナカの店舗など60万店の小売店でも商品の購入が可能になる。楽天利用者の利便性は格段に高まる見通しだ。

 大規模キャンペーンで競う事業者らを尻目に、楽天は加盟店開拓やシステム開発に重点投資するなど、利用者の利便性向上に重きを置いてきた。

 背景には、QRコードを使った決済はわざわざスマホのアプリを起動しなければ使えず、スイカなどと比べて使い勝手が悪いという消費者の声がある。

 政府は、日本の決済におけるキャッシュレス比率を現在の2割から令和7(2025)年に4割に高める目標を掲げる。クレジットカードや電子マネーなどのように専用の読み取り機が不要なQRコード決済は、店頭での少額決済でキャッシュレスの柱として期待される。

 しかし、楽天の中村常務執行役員は「小さなマーケットで高いシェアを取るより、マーケット自体を大きくすることが先決だ」と指摘する。そのためには、幅広いキャッシュレス手段をサービスの中に取り込み、消費者への訴求を進めることが効果的とみる。今後は楽天ポイントをスイカに入金する仕組みも検討するなど、グループの強みを生かして楽天ペイの利便性向上に取り組む。

 巨額の還元合戦を主導してきた大手事業者も、新たな戦略に踏み込みつつある。

 総額300億円という還元額で世間を驚かせた、無料通信アプリLINE(ライン)の「LINEペイ」は5月から、LINE上の友達と1000円相当を送りあえるキャンペーンを実施した。

 6日には、米クレジットカード大手のVISAとの提携を発表した。LINEペイのスマホアプリ内に、VISAブランドのデジタル決済対応カードを作れるようにして、スマホ決済ができるようになるという。LINEペイが利用できる店舗は136万カ所だが、世界5400万の加盟店を持つVISAと組むことで、LINEペイの使い勝手は大幅に高まりそうだ。

 「新サービスを比較的早期に受け入れる利用者層は取り込めたので、次は比較的物事の導入に慎重な層を取り込むフェーズだ」。昨年末に100億円の還元策を打ち出し、還元合戦の火付け役になったソフトバンクグループ(SBG)傘下の「ペイペイ」について、グループ会社の幹部は意気込みを語る。

 ペイペイは2度目の100億円還元キャンペーンを5月に終了し、6月からは店舗や地域などを限定したキャンペーンに切り替えた。インパクトのある還元策でスマホ決済でナンバーワンの知名度を獲得しており、昨年10月のサービス開始からわずか7カ月で累計登録者は700万人に達し、加盟店も60万店舗にまで広がったからだ。

 6月からはヤフーのフリマアプリ「ヤフオク」の売上金をペイペイにチャージできるようにしたほか、8月にはヤフーショッピングなどのキャンペーンで付与している「期間固定Tポイント」をペイペイに変更する予定であるなど、グループのサービスと連携し「普段使いを定着させたい」(関係者)という。

 多額の費用をかけた“祭り”が一段落し、先行する事業者による利便性向上の足場固めが着々と進み始めた。こうした中、LINEペイとフリマアプリ大手メルカリの「メルペイ」は今夏をめどに加盟店を相互に開放する予定であるなど、陣営づくりも加速する。

 一方で、3メガ銀行や地方銀行などが参加するスマホ決済「バンクペイ」も今秋に始まり、この分野で出遅れた銀行業界も巻き返しを狙う。市場で勝ち残るためには、「協調」と「競争」の領域をうまくすみ分ける戦略がカギを握りそうだ。(経済本部 万福博之)

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