宝島社が電子書籍に参入「チーム・バチスタ」「響け! ユーフォニアム」 人気漫画にも解禁の動き

 出版不況が長引く中、電子書籍市場に参入していなかった宝島社がついに重い腰を上げた。先月配信を開始した宝島社文庫を皮切りに、来月には電子雑誌の配信も予定する。これまで作品の発表の場を紙媒体に限定していた漫画家が電子版を“解禁”する動きもあり、出版業界が徐々に変化しているようだ。

 5月末、映画とテレビドラマもヒットした「チーム・バチスタの栄光」などの海堂尊さんの作品が、Amazonの電子書籍のKindleストアなどで発売された。宝島社が自社の書籍を電子化するのはこれが初めてだった。

 さらに、高校の吹奏楽部を舞台にした武田綾乃さんの青春小説「響け! ユーフォニアム」シリーズの全巻とコミカライズ作品、蝉川夏哉さんの「異世界居酒屋『のぶ』」などの電子版も今月末までに配信されることが分かり、SNSにはファンたちの喜びのコメントが投稿された。

 その一方で「あの宝島社が?」と、戸惑いの声もあがった。2010年に電子書籍のビジネスモデルに疑問を呈した「電子書籍の正体」を出版し、同書の新聞広告で「宝島社は、電子書籍に反対です。」と、町の書店との関係を重視する態度を表明していたからだ。コンテンツ配信を受け持つ事業者、プラットフォーマーに販売価格などをコントロールされる恐れへの危機感もあっただろう。

 方針はなぜ変わったのか。参入に踏み切った理由について宝島社はこうコメントする。

 「企業理念“人と社会を楽しく元気に”するコンテンツを生み出すため、新しい才能を発掘し、育成するのが弊社の使命であり、その権利を守ることも重要な責務だと考えております。著作権者である著者の方からの電子版発売の要望も増え、それに応える形で開始しました。全面的な電子化というわけではなく、著作権者の意向をもとに一部の作品で実施していきます」。海外でのニーズの高まりを受け、日本以外の国でも電子版書籍事業を進めるという。

 また、来月には雑誌の電子版の配信も予定している。書店の売上減が危惧されるが、宝島社はこれまで通り「書店での販売に最大限の力を入れる」と意気込む。「sweet」、「リンネル」などの女性ファッション誌は、人気ブランドとタイアップしたポーチやバッグなどの付録の効果もあり好調が続く。紙の雑誌の商品価値を、電子化できない要素で維持させたい考えのようだ。

■漫画業界にも変化の波

 全国出版協会・出版科学研究所によると、2018年の出版市場規模は前年比3.2%減の1兆5400億円。 電子版の書籍・雑誌は2479億円で同11.9%増だったが、紙の出版物が同5.7%減の1兆2921億円と落ち込んだのをカバーすることはできず、全体では14年連続のマイナスとなった。

 電子書籍だけを見れば2017年から年約10%増で手堅く伸長している。電子書籍の推定販売金額の半分以上を占める電子コミックは、海賊版サイト「漫画村」の閉鎖などもあり復調傾向にあるという。

 そうした中、「スラムダンク」や「バガボンド」で知られる漫画家、井上雄彦さんの、車いすバスケットボールをテーマにした「リアル」が週刊ヤングジャンプ(集英社、5月23日発売)に掲載された。同作は紙の雑誌のみに掲載されていたため、電子版が解禁されたと話題を呼んだ。

 人気漫画家、特に大御所級の漫画家の作品は「作者の紙媒体に対する愛情が強い」(別の出版社)などの理由で電子雑誌に連載作品が掲載されなかったり、単行本が電子化されなかったりすることがある。昨年10月には「リアル」と同様に、浦沢直樹さんの新連載「あさドラ!」が、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)の電子版でも開始したケースもあった。Appleが多機能端末iPadを発売した「電子書籍元年」の2010年から約9年の時を経て、出版社と著者が一体となった電子書籍シフトは加速していくだろう。

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