目指すのは“本のショールーム” 図書館流通センター・谷一文子会長「人と接することのできる人材育成を」

★図書館流通センター・谷一文子会長(60)

 全国にある図書館の9割が導入するデータベース(DB)を作成し、500以上の図書館の運営に携わる図書館流通センター(TRC)を率いる谷一文子会長(60)。活字離れや電子書籍の普及が進む中、デジタル化やイベント開催など「本のショールーム」としての図書館づくりに挑戦している。誰もが幼少期から親しんだ学習の場も、変革の最先端を歩んでいる。(海野慎介)

                   

 --主力事業は何ですか

 「書名、著者名など本のDBを作り、全国の公共図書館の9割に導入していただいています。(公共施設の管理運営を企業やNPOなど法人や団体に代行させる)『指定管理者制度』を通じて図書館運営や窓口業務をしているほか、背ラベルやバーコードを作るなど、表に出ない仕事が主力です」

 --民間企業が参入したきっかけやメリットは

 「1番は人材が不足している点です。『開館時間を長くしてほしい』『休館日を少なくしてほしい』などのニーズがありますが、民間が参入することによって延長もできたと思います。『もっとにぎわってほしい』との要望もあり、イベントなどを企画しています。自治体だと決裁が遅い、予算が通らないなど融通が利かない面もありますが、われわれならスピード感も違うかなと思っています」

 --具体的な事例は

 「神奈川県大和市の文化創造拠点『シリウス』では毎日イベントを開催しています。図書館は『健康』をコンセプトに運営しています。お客さんが自由に好きなように利用するということで、『ワイワイ』『ガヤガヤ』しています」

 --「静寂を保つべき」場所から変わっていますね

 「図書館の中は以前とは逆転して、静かにしたい人が部屋で静かにしてもらう形になっています。神奈川県の中央林間駅前でも、商業施設の中に図書館があります。喫茶店もあって壁がなく、フロアの半分が図書館というイメージです。貸し借りも全自動で、ICで管理されているので、パッと借りて帰れます」

 --どのようなキャリアを歩みましたか

 「入社当初は、花形のデータ部にいました。1980~90年代は図書館ブームで、自社や東大文学部などでデータ入力もしました。その後は、大学などにDBの営業をかけました。関西の大学などでは『何の会社?』といわれたこともありましたが実績を積むうち、仕事も増えていきました」

 --最も苦労したことはなんですか

 「2004年に岐阜県高山市で図書館を立ち上げたことです。職員の方は、『街の小さな図書館』に思い入れがあり、『サービスはこうあるべきだ』との信念をお持ちでした。気持ちは分かりますがコストがかかるので、大きな図書館では効率化を進めなければなりません。1カ月間、夜中まで仕事をしたのを覚えています」

 --本や図書館を取り巻く環境をどう見ますか

 「かつては電車の中で文庫本や図書館で借りた本を読んでいる人をよく見かけました。いまもスマホで電子書籍を読んでいる人もいますが、動画やSNSなどに時間が奪われていると感じることはあります」

 --最も力を入れている事業も電子化ですね

 「ADEAC(アデアック)というシステムで、地元の郷土資料などをデジタル化して横断検索できるようにしています。(古文書などで)現代語訳を出したり、古地図も現代の地図と重なり合うようにできる仕組みです。小学校の文集では、書いた子が読んだ声も残すこともでき、これには私も感動しました」

 --現状、どのジャンルの本の需要がありますか

 「あらゆるジャンルが求められていますが、特に医療関係のニーズは大きいですね。ただ、正確で新しい情報が必須なので、文系の司書だけでは判断が難しく、各分野で専門家の知見も必要です」

 --今後の目標は

 「司書というプロフェッショナルには、時代や空気を読む力も求められていると思います。本が大好きなだけではダメで、人と接することのできる人材を育てないといけません」

 【臨床心理士から図書館へ】大学在学中、精神科医で作家の加賀乙彦氏や、心理学者の霜山徳爾氏らに師事。卒業後は臨床心理士として岡山県倉敷市内の病院に勤務したが、所属する精神科が廃止された。

 「職場を失い、フラフラしていました。当初は司書も腰掛けのつもりで、いいかげんでしたが、岡山時代の上司が、本の分類や選書の方法などを教えてくれました。飽きっぽく、一部署に長続きしないのですが、よくやってこれたと思います」

 【家族】東京では、娘と高2の孫の3人暮らし。猫のチヨを飼っている。岡山に赴任中の夫は古代ガラスの研究者で、現地で、大学教員や美術館館長を務める。

 【得意料理】評判がいいのはローストビーフで、ソースもお手製。「年の最後に出版関係者を呼んで振る舞うと、『絶品』といわれます」

 【趣味】洋館めぐり。特に明治期のお雇い外国人建築家、ジョサイア・コンドルによる建築群が好み。都内では台東区の旧岩崎邸など。「通学していた上智大女子寮『旧明泉寮』も洋館だったので、きっかけになったかもしれません」

 【手放せない一品】「みそ漉(こ)しマドラー」。みその入れ物に差し込んで、そのまま鍋で混ぜることができる調理器具。「みそ汁をつくるのはおっくうだったのですが、それで毎食出すようになりました」

 【よく見るテレビ番組】NHKの『チコちゃんに叱られる!』と、『サラメシ』。

 「チコちゃんの方は、ちょっとした疑問を『何だろう』と調べる過程がすごく好きです」

 【私の一冊】ドイツの精神科医で心理学者のヴィクトール・フランクルの『夜と霧』。恩師の霜山徳爾氏が訳出した。「人が限界状況の中で、どう生きる望みを見いだすか、教えてくれます」

 【座右の銘】《一期一会》。「人に助けられてきたので、大事にしている言葉です」

 【健康法】寝ること。「どんなに疲れていたときでも寝れば、朝にスッキリします」

 【小さいころの夢】アナウンサー。「周囲に期待されましたが、すてきな先輩が(試験に)落ちているのをみて、すぐ断念しました」

 【会社メモ】1979年設立。全国の図書館に約9割に導入される書籍データベースの作成が主力で、全国の500以上の図書館などの運営受託、納本業務や備品管理などの事業も手がける。本社・東京。2019年1月期の売上高452億3900万円、経常利益21億1700万円、従業員数8114人(19年1月現在)。

 ■谷一文子(たにいち・あやこ) 1958年12月10日生まれ、60歳。岡山県岡山市出身。81年上智大学文学部心理学科卒業。司書資格を取得した。財団法人倉敷中央病院精神科に臨床心理士として勤務。その後、岡山市立中央図書館司書などを経て、91年に図書館流通センター入社。司書経験を生かし、データベースの作成や営業畑などを歩み、図書館の開館にも参画した。2006年に社長、13年に会長に就任した。

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