値上げの春はもう息切れ 日銀には逆風 消費者には朗報

 【ビジネス解読】 

 今年の春以降、消費者の生活に密着した商品での値上げが相次いでいる。4月の物価上昇率は価格変動が大きい生鮮食品とエネルギーを除いたベースでみると、2年10カ月ぶりの高さだった。ただ、専門家の間では物価上昇の勢いが今後も続くとの見方は少ない。春の値上げラッシュはすでに一巡し、今後は携帯電話料金の値下げも見込まれるからだ。物価上昇は企業の収益増や賃上げにつながる好循環の出発点である可能性もあり、値上げの春の息切れは物価上昇率2%を目指す日本銀行には逆風。ただしそもそも賃上げ機運に乏しい日本経済の現状をみれば、消費者にとってはやはり朗報ともいえる。

 ◇値上げ効果じわり

 ダブルチーズバーガーが10円値上げ、ヨーグルトも10円値上げ、サバ缶は20円値上げ-。

 今年の春以降、こんなニュースを目にする機会が増えてきた。都内の会社員の男性は「ランチでよく食べるカレーが千円超えになった。毎月の小遣いのことを考えると、ちょっとショック」と話す。

 多くの企業が値上げに踏み切った背景には、小麦粉や生乳といった食品の原材料の価格上昇や、人手不足が深刻な運送業界の人件費引き上げで物流コストが上がっていることなどがある。6月1日から即席カップ麺「赤いきつねうどん」などの希望小売価格を5~8%値上げした東洋水産は「生産・供給コストは引き続き上昇するものと予想される」と値上げの理由を説明している。

 値上げの春は政府の経済統計にも表れた。総務省が5月24日に発表した4月の全国の消費者物価指数の伸び率は全品目の水準を示す総合指数で、前年同月比0・9%となり6カ月ぶりの高さだった。さらに価格変動が大きい生鮮食品とエネルギーを除いて算出される指数(コアコア)では0・6%となり、平成28年6月(0・7%)以来の高さとなっている。コアコアは29年3月にはマイナス0・1%をつけていたことを考えれば、値上げの流れはじわじわと強まっているようにもみえる。

 ◇携帯料金は値下がり

 しかし値上げの動きは5月以降も続くわけではなさそうだ。

 4月の消費者物価指数が高い伸びとなった理由には、10連休効果で外国パック旅行費が高騰したことなど一時的な要因もある。すでに発表されている5月の東京都区部の消費者物価指数は、コアコアでの伸び率が4月を下回り、物価上昇の勢いの弱さを示した。

 さらに携帯電話各社は通信料金の値下げを相次いで打ち出しており、消費者物価指数の伸び率を0・2ポイント程度押し下げそうだ。また10月に予定される消費税増税は物価を押し上げる要因だが、同時に実施される幼児教育無償化により、上昇幅は抑え込まれるとみられている。

 ◇上がらない賃金

 一方、物価上昇の弱さは必ずしも歓迎すべき出来事ではないともいえる。

 ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長は「長期的にみれば物価は上がった方が経済にプラス。企業収益や賃上げにつながることが期待できる」と説明する。日銀は物価上昇率2%の達成を目標として金融政策を運営している。これも物価上昇が経済の好循環につながることを期待したうえでの取り組みだ。

 ところが現在の日本経済では、賃金の動向に明るい兆しがみられないのが現実だ。連合がまとめた31年春闘の5月8日時点の集計結果によると、平均賃金方式でみた賃上げ率は2・10%で4年連続でほぼ同水準の伸びとなっている。

 ◇値上げで冷える消費

 今年の世界経済は米中貿易摩擦などで波乱含みの展開が続き、戦後最長とされてきた日本の景気回復の継続にも黄色信号がともる。人手不足という賃金を押し上げるはずの状況もあるにはあるが、専門家の多くは「先行きの不透明感などから企業の多くは積極的に賃金を上げづらい状況だ」(大手シンクタンク)とみている。

 さらに物価上昇には企業業績を引き上げて賃金を増やすという効果が期待される半面、消費を冷やしてしまう効果も想定される。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「日本の正社員の賃金水準は労使交渉で決まり、物価が上がれば生活者への配慮から賃金が上がりやすくなる。ただし物価上昇幅ほどには上がらないので消費性向は落ちてしまう」と話す。

 値上げの春の息切れは日銀の期待からは外れるかもしれない。しかし値上げに見合った賃上げが見込めないのであれば、上がらない物価は消費者にとって良いニュースだろう。(経済本部 小雲規生)

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