事実上さじを投げた形…徴用工問題の韓国不作為 ウォン急落を助長

 先の大戦時の韓国人労働者らのいわゆる徴用工問題をめぐり、日韓の対立が鮮明になっている。補完関係にある日韓の経済関係にも亀裂を生じさせる懸念は否めない。アジア通貨危機を想起させるとも指摘される足元のウォン安の進行にも影響を及ぼしかねず、韓国側にとっても問題をこのまま放置するのは得策とはいえないのではないか。

 「当社の資産が第三者に売却されることになれば、当社に実害が生じかねず、極めて遺憾」

 日本製鉄は5月1日、こんなコメントを発表した。「徴用工や女子挺身隊員だった」と主張して損害賠償を求めた訴訟の原告側が、差し押さえている日本企業の資産の売却命令を出すよう裁判所に申請したからだ。

 資産売却命令の申請は一連の訴訟で初めて。原告側が、日本製鉄と不二越の韓国内の資産売却命令を出すよう求めた。原告側は、三菱重工業が韓国内で保有する資産の開示も裁判所に要請した。

 徴用工訴訟をめぐり韓国最高裁は昨年、日本企業への賠償命令を確定。差し押さえた資産は、日本製鉄が韓国鉄鋼大手「ポスコ」との合弁会社「PNR」の株式19万4000株▽不二越が韓国内の合弁会社「大成・NACHI油圧工業」の株式7万6500株▽三菱重工が商標権2件と特許権6件-となっている。

 日本政府は「個人請求権の問題は日韓請求権協定で解決済み」との立場で、日本企業もこの見解に基づき賠償支払いや協議を拒んできた。現状は日本企業の資産が脅かされている格好で、今後も訴訟や賠償命令が相次げば、日本企業が対韓投資やビジネスに二の足を踏む恐れも出てくる。だが、韓国政府側には、問題を前向きに解決しようとの姿勢はみられない。

 徴用工問題で、日本政府は5月20日、日韓請求権協定に基づき、第三国の委員を含む仲裁委員会の設置を韓国政府に要請した。1月に協定に基づく2国間協議を求めた後、4カ月以上も韓国政府の対応を待ち続けたが、韓国の李洛淵首相が「いろいろ論議をしたが、結論は限界がある」と発言。事実上さじを投げた形となり、日本政府は協議による問題解決は困難と判断した。その後、パリでの日韓外相会談でも、河野太郎外相は仲裁委の開催に応じるよう要請したが、韓国の康京和外相は同意しなかった。

 経済分野に目を転じると、日韓両国は互いの得意分野を生かし補い合う関係を構築している。韓国は半導体やスマートフォン、家電などで日本の部品や素材に依存。昨年の対日貿易赤字は国別で最大だ。

 徴用工問題を背景に、5月に予定されていた日韓財界人による「経済人会議」が延期された。日韓の関係悪化は、こうした両国の財界人の交流にも悪影響が出てきており、このままでは双方の経済にとってもマイナスだ。

 一方、米中貿易摩擦の再燃で、投資家のリスク回避姿勢が強まり、新興国通貨の売り圧力が強まっている。韓国ウォンも例外ではなく、特に4月末以降、対ドル相場が急落。5月中旬には2年4カ月ぶりの安値圏に沈んだ。

 米中摩擦で中国経済が打撃を受け、外需の対中依存度が高い韓国経済の先行きが危ぶまれている。既に今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は、前年同期比1・8%増と10年半ぶりに2%を下回る伸びに鈍化。前期比年率ベースでも1・35%減と5四半期ぶりのマイナス成長に落ち込んでいる。文在寅政権による最低賃金引き上げなどで、雇用環境が悪化していることも懸念材料だ。

 韓国は1997~98年のアジア通貨危機が飛び火し、国際通貨基金(IMF)の支援を余儀なくされた。一部の市場関係者の間では、足元のウォン相場急落で危機の再来を警戒する声も上がっているが、第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミストは「外貨準備高の動向を勘案すれば危機的状況にはほど遠い」と指摘する。

 ただ、急激なウォン安は輸入物価の上昇につながるほか、「銀行セクターを中心に海外資金への依存度が高い韓国経済にとってはウォン安に伴う債務負担の増大が幅広い経済活動の足かせとなる可能性もある」(西浜氏)。

 同氏はまた、ウォン安の背景として、「わが国を含む周辺国との関係悪化により、セーフティーネット構築による潜在的リスクへの対応がおろそかになっている」ことも挙げる。危機時に互いの通貨を融通し合う日韓の通貨交換(スワップ)協定は、両国の関係悪化で中断したままだ。徴用工問題に対する韓国政府の不作為は自国経済のリスクを増幅させているともいえるだけに、是正への努力を望みたい。(経済本部 本田誠)

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ